第一〇一〇回 テラスの午後三時。


 ――枯葉には、まだ程遠い蝉時雨。樹木は青々と茂っていた。



 僕らは向かう。約束通りに令子れいこ先生のお家へ。そこは、芸術棟と隣接しているに等しい場所。大きな門……の名残ともいえる跡地。今はもう門の仕切りなどなく、開かれた御伽話に出てきそうな御城への道。その聳え立つ御城こそが、令子先生のお家。


 ――西原にしはら宅だ。


 午後三時、迎えに来た梨花りかとも合流し、葉月はづきちゃんと共に三人での訪問。独特な音色を持つ玄関のチャイムの直後に、令子先生がティムさんと共に迎え入れてくれた。


 するとその奥深く……


 白く映えるテラスに、瑞希みずき先生が丸いテーブルを前に、チェアーに腰を掛けていた。


「先客いるけど大丈夫?」

 と、令子先生は訊く。僕らに……


「もちろん、大丈夫です。斯々然々かくかくしかじかも含めて」


 そう答える。その発端は、令子先生にあった。あの時、まだ話さなくてもバレたというのか……わかっちゃったみたいなの。先程のアトリエで、僕の様子を見ただけで……


千佳ちかさん、確認するけど、本当にそうなの?」


 と、瑞希先生は問う。今の僕らの担任は……彼女だから。今度ばかりは、いくら彼女でも、きっと怒られることだよね。と、ある部分では乖離状態ではあるけど、コクリ……と頷いた。今でも少しは、お腹が。近いうちにわかっちゃうよね、どちらにしても……


「御両親はもう知ってるのね。君は、生みたいんだよね。……だったら、先生は君の味方だから。実は、お母さんから聞いたの。二学期からも、ちゃんと学園に来るんだよと、それが言いたかったから。その様子だと、梨花さんも葉月さんも知ってるんだね。君は勇気をもって、正直に話したんだね。わたしはそのことが、何よりも嬉しかったの」


 と、彼女は笑みを見せた。そして「それにしても令子、相変わらず勘が鋭いのね」「よく観察すればわかるよ。やっぱり瑞希だね。千佳さんのこと、ちゃんと理解してる」と。



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