第一〇〇九回 忍び寄る謎の気配。


 ――それは、このアトリエで感じたこと。



 極端に述べるのなら、床以外はお外って感じ。観葉植物なども飾られており、大自然の中をイメージしている。でも、八割以上は人工。天井と側面は透明な壁がある。マジックミラーという仕掛けだ。お外から見たら、薄い青色の壁のように見えるそうだ。


 その仕掛けは、葉月はづきちゃんが来る前に知っていた。


 恐らく、それ自体が謎ではないと思うの。もっと見えにくい場所。もっと目立たない場所にあって重要なもの。それは、それはね……この空間そのものにあると思う。



 音……


 耳を澄ませて……


 ほら聞こえてくる。有り得ない音も……



 いない筈の小鳥のさえずりや川の調べまで、それにクラシカルな音楽も微量な、本当に囁く程度のものだけど、お腹にある生命の鼓動と共鳴して感じたこと。それがこのアトリエの謎だった。なら、何処からその調べが? すると現れた。このアトリエに。


令子れいこ先生」

 と、葉月ちゃんと共に、その人の名を高らかに。


千佳ちかさん、どうやら気付いたみたいね。このアトリエの仕掛けに。……正直、僕にもわからなかったけど、この空間が音の調整をしてるみたいなの。流してるのは、アルファ波といわれるもので、ほら、あそこから。アトリエのドアがスイッチの役割をしてるの」


 仕掛けられている小型スピーカーで、見上げたら、天井の僅かなスペースに。


 そしてこの空間こそが、その音を、人間の耳に微かに聞こえる程度に調整していた。緻密な計算が施されている空間だった。そのことも踏まえて僕は……


「三時にまた、お伺いしますので」と、本人にアポを取るに至ったのだ。



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