第一〇〇八回 今再びのアトリエ。


 ――ここは別世界のよう。とても薄い青のフィルターに包まれたような感覚。



 その感覚こそが、この芸術棟を涼しくさせている要因なのかもしれない。もしかしたなら、まだ明かされてない謎ってこれのこと? お外は猛暑だけれど中はね、適温なの。


 考えられている温度設定……

 後を歩く。階段も上る、二階まで。葉月はづきちゃんの後を……


 その行く先は、やはりアトリエで。元は開かずだったドアも、今は開放され、早速と開始される様子だ。でも、スケッチブックを持って徐に、描き始めたの、B2の鉛筆で。


 いつもと違う。

 そう思いながらも身を、この流れに任せようと思った……


「どのような、感じがいいかな?」


 と、訊いてみた。この場所に入ると、とても室内とは思えない程の透明感。困惑する今の世の中とは異なる透明感だ。表裏一体したというのか、大自然にも還るそんな感じ。


「あ、服はまだ着たままでいいよ。今はまだ、ポージングを思考中だから、とは言っても自然に。千佳ちか先輩が楽と思われるポーズに合わせるから。……そう、自然にだよ……」


 いつもなら、描く時は裸になるという噂……


 ではなくて実際にそうだけど、葉月ちゃんはまだ服を着たまま。初めて会った頃のことを思えば、丸い眼鏡もなくて、お下げの髪も解いて、背中に届くフリーなスタイルで、柔らかな印象を与えていた。服は白のTシャツに『誠』という文字が目立つもの。それに水色のホットパンツという軽快なスタイル。夏休みだからこその私服OKパターンなの。


 僕は僕で、白のワンピースというシンプルなものだ。


 それでもって会話の続きだけど……


「あの、完成に近づくと、やっぱりヌードかな?」


「そうなっちゃうね。今回のテーマが誕生だから。僕にとっても千佳先輩にとっても、大きな作品になると思うの。このアトリエには、僕と千佳先輩だけだから……最後まで」



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