第一〇〇七回 空に聳える芸術棟。


 ――青空に映える、白い御城という感じ。



 僕は来た。約束を守るべく夏休みの学園。今向かい合う芸術棟の前にして。


 ……すると梨花りかは言う。


「三時に、迎えに来るね」


「ありがと。でも、梨花はいいの?」


葉月はづきちゃんが描きたいのは、千佳ちかだから」……と言い残し、梨花は去った。



 時は、八月から二日経った今日。これより始まる芸術部ライフ。梨花と入れ替わりで葉月ちゃんが現れた。駆け足で息も切らして……「待ちました?」と声も掛けながら。


「ううん、さっき来たばかり」


「すみません、僕が約束したのに寝坊しちゃって。すぐ開けますね」


 芸術棟の扉を開ける鍵……


 今では葉月ちゃんが管理している。芸術部の顧問は変わらず令子れいこ先生で……暫く会ってないことに気付く。彼女のお家は、ほぼ隣接している程に近い距離。ティムさんもそこにいる。二人は夫婦で、オリンピックに誕生したれん君というお子様もいる。あれから、


「もう二年だね」と、葉月ちゃんは言う。


「もうそんなになるのね……」と、遠い日を見るような感覚になりそうなところを、


「今日の帰り、会いに行きましょ。語らいしたいことも多いことでしょうし。もしかするとあのお方も来られてることと思われますし。もちろん梨花先輩も一緒にね」


 とのことで、三時以降の予定が決まったの。


 実は……葉月ちゃんのお願いは二つあった。今回の私学展に出展する作品のモデル。どの様に描くのかは、まだ具体的には知らされていないけど……


 もう一つは解き明かして欲しい謎への挑戦。芸術棟にはまだ、明かされていない謎が潜んでいるから。どうやらそれは……令子先生が葉月ちゃんに与えた宿題のようなの。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る