第一〇〇六回 仕掛け人は二人も。


 ――事の発端は、梨花りかの一言から始まった。珍しくも漏らした一言。



 僕のこの先のことを思うあまりに、涙声で語っていたそうだ。……「千佳ちかに、忘れられないような学園での思い出を」と。その相手が、芸術部の葉月はづきちゃんだったの。


 だとしたなら、この夏は芸術部がメイン。


 今年もまた、私学展に挑戦すると宣戦布告の葉月ちゃん。八月から始まる絵画制作。アクリル絵はまたも人物。僕をモデルにしたいと、お願いしてきたのだ。


 その場所はアトリエ……

 つまりは芸術棟の二階だ。この夏休み期間のみ、僕は芸術部の関係者となる。


 その開始は、早速だけど明日から。あまり日数はないと言っていた。


 そして語る。葉月ちゃんがこの度のテーマについて。それは生命と。だとしたなら、梨花の一言によって、葉月ちゃんの絵のテーマが決まったのと思われる。だからこその黒幕……ではなくて仕掛人と呼ぶべきなのだろう。僕だけの仕掛人だ……


 今はもう、その前夜。


 この身は、もうお家。楽しい時はすぐ過ぎるというのは本当で、僕もまた、この学園生活を終えたのなら、今はお腹の中にいるこの子たちを養うために働かなければ。


 その思いを、お母さんに言うと……

 叩かれたの。そして怒られたの……


「青二才が。高校までの経験で乗り切れると思うの? 先生になるって宣言したのは軽い気持ちって、そうじゃないよね? 夢の一つも叶えられない母親なんて、私は認めないんだから。良い母親じゃなかったけど、あんたを育ててきた私を嘗めないでよね」


 叩かれた頬は熱く、涙も出たけど……

 それ以上に、お母さんの厳しくもその裏側の優しさが身に染みたの。


 その言葉の裏側には、ちゃんと大学へ行って、先生になるという夢を叶えるんだよ。との言葉があった。「あんたには、もっと幸せになって欲しいから」という言葉も併せて。



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