第一〇〇二回 梨花と出掛けよう。


 ――八月の風に向かって。真夏の風景を。


 私鉄沿線でローカル電車。されど乗り換えなし。空いている時間帯でもある。



 どうやら計画中ではなかったようだ。一見思い付きのように思えるのだけど、緻密な計算があるようだ。梨花りかは意外と計画を立てるタイプ。自己中のように見えるけど、実は誰よりも気配り。僕が思うに、お姉様肌の可奈かな以上と。やっぱり僕のお姉ちゃん。


 座席に座るも横並び。交わす言葉は、あまりなくて……


 少しばかり俯く。俯くといえば、近頃は前屈みでスマホを見る人が多い。この号車だけでも凡その三分の一を占めている。マスクしている人は二分の一くらいだ。お外の気温は高く、この時点で三十四度と、スマホが表示している。着ているものは白と黒。


 白か黒をハッキリさせるような、ゼブラなワンピース。


 最近はスカート系が殆ど。……そして今、頭を上げる。すると……


「お久しぶりです、千佳ちか先輩」

 と、スマホ片手に葉月はづきちゃんと、その横に怜央れお君。僕の前に立っていた。


「臨海学校以来かな? 最近どお? 芸術部」


「そうですねえ……

 実は言いますと、折り入って千佳先輩にお願いしたいことがあるのです」


 お顔を見た時から……


 実は、そんな感じがしたの。これもまた梨花の計画のように思える。そして心して訊いてみる。少し息を吐いてから「僕たちこれから、マルチメディアの中心部へ行くけど、一緒にくる?」と、いう具合に。お顔を見合わせる、葉月ちゃんと怜央君。すると……


「奇遇ですね、僕らもそこへ行こうとしてたので」と、葉月ちゃんは言う。そして何だか便乗するように「そうだよな葉月、前から見たいって言ってたもんな、推しの漫画の展示会。今そこへ向かってるもんな」と、怜央君は言った。そこに二人の仲を垣間見たの。


 以前よりも深まっている。そして今だからこそできる、青春の一コマ一コマだって。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る