新・第一章 千の物語の向こうへ。

第一〇〇一回 千佳の新たな一歩。


 ――そこは、未知の世界。



 そう思っていた。……でもね、朝が訪れたのなら、やっぱりいつもの日常。正直なところ、まだ心の準備が追い付いていなく、実感も。……僕のお腹の中にある新たな命。


 三か月も一緒にいながら。


 それでも身の回りで実感する変化は、ベッドではなくお布団になっていた。そして時折だけど、梨花りかが傍にいるの。同じお布団の中で、お顔も息が当たる程にまで。


 すると、するとだよ。この状況って、やはりお約束の、


 ――チュッ!


 と、字幕にハートマークが出現しそうな場面。そのタイミングで、目覚める梨花。


千佳ちか、何チュウしてるの?」


「それはこっちの台詞だよ。梨花がお顔を近づけてくるからでしょ」


「ホント?」「ホントだよ」「じゃあ、もう少しこのままいようよ」


 と、梨花が言うから。ちょっとばかり暑い。でも温もりが程好い。お外は十年に一度の暑さという。人間の体温を超える暑さも午後になれば必至だ。温暖化も既に深刻な域。されども従来の対策しか行われてはいない。そんな中だけれど、コロナからの縛りから解放されたと思うのが世間。世の中の人は所狭しと飛び回っている。これまでの自粛や蔓延防止などで抑えられていた分を倍返しに至るまで。お出掛けする御家族も多いことだろう。


「千佳、行ってみない?」

 と、唐突に言う梨花。なので「何処へ」と、訊いてみる。


「僕ら二人の夏休みの思い出に、遊園地かショッピングか、それとも……」


「フーン、まだ計画中だね。或いは、決まってるんだね、マルチメディアの中心部とか」


「アハ、わかっちゃった?」


「バレバレだよ。何年一緒にいると思ってるの? 欲しいバンプラがあるんだよね」


「それだけじゃないんだな、これが。千佳のお洋服とか、これからのことも考えて」



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