第一〇〇〇回 未来へ。


 ――今はまだ七月。お盆にも満たない日に、僕のお腹に新たな命が宿っていた。



 この子たちは、もう三か月も前から僕の中で生きていた。目まぐるしく始まった令和五年。僕と太郎たろう君の愛は、究極なまでに深まり、僕らがパパとママになってゆくの。



 僕のエッセイの始まりは……


 僕にパパができたところから始まった。そこから広がる縁。次々と明かされる、僕の知らなかった真実。双子の姉の存在と実のパパのこと。僕の運命は変わっていった。


 僕の欲しかったものが、この物語のテーマだった。

 つまりは家族がテーマだから、この物語の終盤も、家族のお話で締め括られる。



 それが、この結末なの。


 でも後悔なんてないの。幸せの形って人其々だから、僕と太郎君の幸せは、やはり家族の中にあったと思えるの。僕も太郎君も母子家庭を経験していたから。パパとママが両方いる方がいいと願っていたから。……生まれてくる子には、パパとママが両方いるの。


 それが、僕たちだから。


 そして産婦人科に通うのも二度目の時、発覚したことがあった。初回では言われてなかったことだ。とは言っても、太郎君と僕の子には変わりはないのだけれど……



 正確には、この子たち・・なの。


 実は双子だったの、僕のお腹の中にいる子たちは。



 ふと思う、まだ十七歳になったばかり。それも三か月だから、もしかしたら生まれてくる時はまだ、僕も太郎君も成人していないと思うの。それに今の医学は進化していて、


「予定もわかるの?」だった。


「来年の春。順調にいけば五月。女の子が二人……」と、それが耳に残った。


 初めての経験。それも、お母さんが僕と梨花りかを生んだ時と同じ、双子の女の子。今はまだ二学期も訪れない、八月にもなっていない夏休み期間。じっくりと思考する、生涯で大切なこと。それは僕だけではなく太郎君も、傍にいてくれて励ましてくれる。


「一人で抱え込むな。俺も一緒だから」


 と、言ってくれた。本当なら、北陸旅情をもっと満喫したかったと思う。遊びにだって行きたかったと思う。……僕のために、と思うと……


「俺は、千佳ちかとずっといられる方が、楽しいから」


「ちょっと、そんなこと言うと、マジ泣けてきちゃうじゃない」


 大きくなってきたのがわかる、お腹。三か月を超えてくると、その実感があるの。


 それからというのも、僕が一人でお出掛けすることはなくなった。いつも誰かが一緒なの。その殆どが太郎君だけど、ジョギングは……「ダメ」と梨花に言われた。その代わりに「お散歩」と、梨花が僕の手を引いて一緒に歩いてくれた。その後のシャワーも、


「キレイキレイしようね」と、梨花が洗ってくれた。


 産婦人科へは、お母さんが一緒だった。……きっと、僕のケアのために……



 銀河鉄道の夜に見た未来図は、着実に現実のものとなっている。


 長いようで短い、お腹の子が生まれるまでの期間。夢で見た、病室でお母さんに見守られながら、ヒーヒ―フ―の呼吸によって我が子が生まれる瞬間も、現実のものとなる。


 実は……


 一〇〇〇回をもって完結しようと考えていた僕のエッセイだけど、もう少し続けて見ようと思うの。その間に、そらちゃんたちの物語は始まるけれど、ゆっくりと、999スリーナインのような蒸気機関車のように、これからの未来へのエッセイを綴っていこうと思う。僕がママになる第一歩のエッセイ。太郎君と二人で二人三脚な毎日のことを。



 やがて時は来たる……


 この子たちが自身のエッセイを綴っていく時が。実は言うとね、


 もう決めているの、この子たちの名前。一〇〇〇回を迎えた今日に因んだの。僕が千佳だから、妹の方を千恵ちえ。姉の方が梨子りこと。お母さんの名前が千尋ちひろだから、きっと僕の名前を千佳にしたのだと思えるから。――千の良いことがありますようにとね。



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