第九九七回 何気ない、今日この日。


 ――久しぶりの二人きり。お家で梨花と一緒。同じお部屋で並んで座っていた。



 夢中には程遠く、ぼんやり眺めるテレビ画面。気怠さも丁度良い午前の風が、カーテンの隙間から流れる。そして画面に流れているのは、とあるニュース番組。……さっきまではNHKの教育番組だったような気がするのだけど、いつ変わった? と、そこまでは思わなかったのだけど、僕は声を掛けようとした。そのタイミングもピッタリに、


千佳ちか、明日だったね、新婚旅行ハネムーン」と、梨花りかは訊いてきた。


「へっ? あっ、う、うん、新婚旅行だなんて。普通の、健全とした青春アオハル的な旅行。僕らは高校生なんだから、高校生らしく瑞々しい旅行なんだから……」と、突然の梨花の言葉に、お顔から火が出そうになったけど、新婚旅行という思いは図星と認めるの。


「高校生らしくって何なのかな? 臨海学校の時もそうだったけど、結局は、今この時に一番したいことをすることがそうなんじゃないかな? 僕は、高校生らしくとか関係ないと思うの。育む未来はね、いつも今この時がスタートだよ。ウフフ、千佳の未来……」

 と、含み笑いの梨花。


「み、見てたの? あの……僕と太郎たろう君の、その……」


「わかっちゃうよ。その朝の千佳の顔を見てたら。何かあったってことも、想像もね」


 そんな時に限って、梨花のお顔を直視してしまう。その中で蘇る、あの群青色の海辺でのロマンス。ボン! と脳内で効果音が弾ける程に、鮮明に、抱き合う裸体まで……


「あのね、梨花……」


「ンっ、そこから先の言葉はナシだよ。僕はトコトン愛しなさいって言いたいだけ。まだ早いって思うなら、それは違うよ。千佳は、ずっと太郎君のことを愛すると思うから。それにだよ……」「それに?」「育む未来。千佳が定めたこの章のタイトル。これは偶然なんかじゃないよね。あの夢にだって、意味はある。僕は、正夢だと思ってるから……」


 そして靡くカーテンの向こうには、白く輝く世界。未来という名の世界は、明るく無限に広がる世界だ。育むことは進むこと。それは、梨花が見せてくれた世界だったから。



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