第九九六回 震えるな、瞳凝らせよ。
――それは伝説となるのか? 晴れる白い霧のように、画面が鮮明になった。
倒れていた。……
そしてそしてそしてだよ、僕のアバターは立っていたの。右腕を上げ、拳を天に掲げながら。あと一撃の差ほどの、残り少ない
僕は勝った。太郎君に勝利した。
この度初の個人戦となった℮スポーツ部門。ウメチカ戦に、ウメチカの名が高く掲げられ……と、思うのも束の間。回転を加えたハンマーが、僕のアバターに向かって飛んできた。迅速な対応で、僕は弾き返した。召喚したマジカルステッキ。これこそが、魔法少女になるための必須アイテム。変身を遂げる。光に包まれながら、勇姿を纏った。
対峙する相手はラスボス……
クック大王を名乗るも、そのブースにはティムさんの姿があった。
つまりティムさんが、この度のラスボスということになる。……僕は思った。どうしてティムさんが? と。声の届かない距離にあるけど、マイクを通じて会話は可能となる。
その方が、この場が盛り上がると思われるからだ。
「クック大王の座も、予選から勝ち抜いてきたんだ。
「じゃあ、僕が相手で良かった? ティムさん」
「もちろん大歓迎。というより、千佳が来るのを待ってた。いつか言ってた親子のスキンシップ。まさに『今でしょ』って感じでな。ゲームは楽しむもんだから……」
「そう。ゲームは楽しむもの。本当ならもっと早く、ティムさんとしたかったけど、今でも遅くないよね? 今だけ僕のパパに戻っても」と、僕は告げるのだ。その思いを……
「そうだったな。臨海学校の時は、千佳が皆の輪の中へ入っていけるチャンスだと思ったから。……でも、もうその心配もなさそうだな。千佳はもう、ボッチじゃないから」
今一度、思い返す出会い。
あの日この場所で出会ったの。
溢れるのは感謝の思いだ。涙はもう似合わず、笑顔満開なこの場所に。
飛び交う無数のハンマーは、まるで花束のように華やかで。僕はマジカルステッキで受ける。しっかりと受け止めながら前に進む。進めば二つ手に入ると、
貴方への感謝の思いと、これから育む未来への門出。
明日から、またお友達。千佳は今日、貴方の娘として送り出されるの。
だから、だからね……
僕は進むよ。「パパ、ありがとう」という言葉を残して。最後はブーケとも言える、ここでは大きなトロフィーが手に入った。第四回を飾る、ウメチカ戦の優勝の証なのだ。
キングキングスの称号を頂いた。
女の子でもキングとなる。それが証拠にクイーンの救出があった。チェリー姫を救出するというゲーム上のシナリオも無事に飾れた。ならば、誰なのか? そのお顔を拝見。
そこで流れるエンディング曲。
この曲って、第一回で使われたものと同じ。……だとすれば、
「梨花」だった。
それも天使の歌声ともいえる、透き通った歌声で、白いヴェールから現れる、今日だけの歌姫の姿。ゆっくりと、ステージを降りる。澄んだバラード曲……と思われたけど、
「レッツ、サプライズ!」
との掛け声と同時に、その曲はアップテンポに変わったの。
すると何々? 画面に花火が上がって、僕の服が瞬く間に変身したの。白のワンピースだったのが、純白のドレスへと早変わりした。するとすると、いつの間にか太郎君も、
「わあ、綺麗―っ、まるでウエディング」
と、
「そうだよ。千佳の結婚式の仲人は僕。約束だからね」
と、ティムさんは僕に残した約束。太郎君は「必ずだからね、僕と千佳の結婚式」と言い放ったのだ。しかもしかもしかも、これ、全部に流れちゃっているの、画面通して。
ボン! と脳内で炸裂する効果音と共に、お顔が先に炎上にまで至ったのだ。
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