第九九五回 電光石火の一撃を呼ぶ。


 ――それは雄叫びから。震えはない。この時を待ち望んでいたから。



 それはきっと、彼も同じ。君は僕と、僕は君と、心の底では一番に対戦したい相手だったから。出会った時から……君が初めて、僕の戦闘中の画面に乱入した時から……



 君は、胸のバッジを輝かせ、ウルトラ・タロに変身した。お馴染みの赤い巨人だ。


 僕も、胸のバッジが輝いて、魔法少女になるためのステッキが現れた。これこそが変身アイテムでもあり、最大で唯一の武器だ。しかしながら、多種多様のアイテム。剣になったりロープになったり、そして必殺のシュートを放つことも……できるらしい。まだ試みたことはないけど、変身後に使ってみるつもりだ。光に包まれながら、コスチュームへの着替えは魔法少女の変身では定番。しかもいきなりのパワーアップバージョン……


 その証拠に、広がる白い翼。マジカルエンジェルだけに、天使の翼。



 必殺の技が撃つのは我が身……


 なら、試してみる必殺の技。僕は叫ぶ。「マジカル・フラワー・シュート!」と。


 今日初めて見る、今初めてできた技だ。「スペシューム・シュート!」と、合わせてきたウルトラ・タロ。彼の最大の必殺技だ。……もし彼が通常サイズ(五十三メートル級)なら、僕のキャラのマジカルエンジェル・チカは、見事なまでに消滅だけど、ここはゲームの世界。身長差はチカの方に合わしている。なので、どちらも同等たる光線技で、


 ――華々しく、白く輝いた。


 画面は、真っ白になったの。

 白い光が止むと、そこにはステージの風景だけ……


 HPヒットポイントを司る表示は見当たらずに、ウルトラ・タロもチカも見当たらない。姿形もなくなっていた。静まり返る会場。思うにお互いの光線技が、ビッグバーンを起こし、お互いを消滅させたようなのだ。次の……第二ラウンドまで少しばかりの時間が空いた。



 でるビット。僕も太郎たろう君も。


 ステージの中心で向かい合う。……何を語るのか? 僕の思っていたことを、太郎君が口にした。放つ言葉は「次で決めよう、勝負。光線技も能力なしでな」だった。


 そして了解の意味を込めたハイタッチ。

 爽やかな表情の太郎君と、きっと僕も。



 舞台は星屑のステージと、ボルテージも高まる。第二ラウンドの開始となる。


 心してかかるお互いもお互い。僕らが求めている戦いは、戦争ではなく、あくまで勝負の世界。だからこそのウメチカ戦だ。勝負が終わったら、そこに咲くのは爽やかな笑顔。


 僕も君も皆が皆。だからこその、全力全開!


 お互いのアバターが画面で戦う。光線技どころか、変身もなしの戦いとなる。太郎君はウルトラ・タロに変身はせず格闘の技のみ。ならば、僕も同じ。変身はなしだ。


 繰り出す技はシンプルの極み。

 だけれど、これこそがお互いの勝負には平等。


 使う技は、波動のパンチに昇竜のアッパー。時には夏塩蹴りサマーソルトキックに旋風キックも。そこにあるはずだ。僕を瞬殺した技。君が繰り出した、画面が真っ白になる程の、連続コンボ。


 僕は練習を積んできた。君に内緒の特訓といえること。


 僕の強敵は、実は君だったの。

 いつも君の傍で研究していた。君の打倒策を。……でも、策や法では敵わないことも。



 僕は、自身を磨いた。

 策や法に勝る兵法を、身に着けるため。


 ――画面が真っ白になった時、奏でる効果音。


 それが今、この時だ。目に見えない連続コンボが、お互いで繰り広げられているのだ。


 僕も太郎君も、どちらが勝利するとか、この時点では不明で、この真っ白な画面が止む時にしか確認できない、そんな状況なの。ただ一つ、わかっていることは……


 僕は漸く、君と同じことができた。


 そういうことだから。これが僕にとっての全力全開だ。


 想いを込めたその時、画面は変わった。――そこで僕らの見たものとは、一体何か?



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