第九九四回 大義名分、そこを超越。


 ――脳内から溢れ出る、挑戦者との大激戦。思えば、どの戦いも難易度MAXだった。



 油断あるなら、秒殺どころか瞬殺される、それがウメチカ戦だ。


 夢の中にあっても、想い出が繰り返されるように、繰り返される試合の数々。特に第一回の初試合は、僕にとっての原点となった。相手は美千留みちる。いじめられっ子だった僕が勝つために、いじめっ子だった彼女と繰り広げられる大激戦。その目的は復讐?



 全くないと言ったのなら、それは嘘になるけど……


 それをも呑み込むような、繰り出す技と技の間に生まれた、言葉を越えた対話。僕のイメージ色が黄色だったから、まるでタイガーのように黄色い悪魔からの変化?


 なら、僕は誰と戦っていたのか? 相手とは、あくまで試合だから。お互いを理解しようとする心の変化。そのキッカケを齎すことが、ウメチカ戦の狙いだったのだ。


 それが伝説となり、学園の中でも……


 語り継がれる人から人へ。回を重ねる毎に、増える参加者と部門もまた種類が。誰もが楽しめるイベントとなっていった。宇宙空間のように広い世界観も、目覚めたら、いつもと同じ風景となる。明けない夜がないように、明るい朝は訪れて、どんなに曇っていたとしても、朝と認識できる明るさ。そこで見る立体感が、安心できる日常だった。


 今日がウメチカ戦の最終日ということも、


 忘れそうになる程の、穏やかな空間。或いは時間の流れ。それは自然に、朝のルーティンへと運ばれてゆくの。駆けるカントリーロード。いつものジョギングコース。


 朝とはいえども、気温はもう三十度近く。その陽射しも、フィルターを忘れたような感覚。射すではなく、刺すほどにキツイ感じ。焼けるような暑さで……思わせる、迅速な温暖化。百年先の症状も、早まったかのように思える。帰ったなら、即シャワー。火照る身体を冷やすことを目的とした、熱中症対策。だけど、その温度は人肌よりも徐々に下げてゆく感じ。いきなり水だと、ヒートショックの恐れがあるからだ。


 そこで会わす、今日お初の梨花りか……


「おはよ」と、声の掛け合いと共に、お湯の掛け合いへと展開してゆく……



 それもまた、最近のルーティンだ。


 整う身体に、纏う衣服。この暑さに見合った、白のワンピースに身を包んだ。よりにもよって、梨花とお揃いで、これってもしかしたら「見分けがつく?」と、僕も梨花も向かい合って合唱。まるで鏡のような容姿。声までもソックリだから。でも、一歩お外に出るとだね、……颯爽と見分けられる僕ら。太郎たろう君はもちろん、可奈かなせつも、かいだって……


 でも、そらちゃんは?


「しっかりと見るよ、ウメチカさん」と、確実に僕に向かって発言した。


 横に梨花がいても、その視線は真っ直ぐに僕を捉えていた。昨日の今日だけど、もう見分けられているってことだ。そしてここからは、一騎打ちと名乗る試合。


「さあ、勝負だ、千佳ちか


「臨むところだよ、太郎君」……と、白く輝く歓声の中へと身を投じた。


 今日の試合は、この一騎打ちのみ。共にキングキングスの名乗る者同士の戦いだ。



 切って落とされる幕の前にもう少し……


 普段と変わらない太郎君。昨日だって、普通に鉄道模型のイベントを楽しんでいた。何もなかった特別なこと。いつもそうなの、大きな大会の前の日はね……


 イメージ的には、河原で横に並んで釣りを楽しんでいる、その場面で、語るお話は雑談中の雑談。他愛もないお話。面白い内容も、ごく自然に生まれ生まれし。


 この少し前まで、弾む笑い声だった。


 そして今、対峙するように設置されたブースから、自分でも嘘みたいに切り替えられた頭の中。本当の意味で、これから始まる太郎君との対決。ここで一切の会場の空気が、変化したのだ。まるで嵐の前の静けさだったように……


 この一騎打ちで勝利した者は、まるでスーパーモリオのように、クック大王の無数のハンマー攻撃が待っている。それをクリアーしたなら、チェリー姫の救出に成功し、ヒーローの称号を得る。賞金も得る。その賞金で、僕は旅行を計画している。太郎君と二人……


 北陸旅情の旅。それはまるで、ちょっと早めの新婚旅行ハネムーンのように。


 しかしながら、途中まで空ちゃんが一緒ということになったから。



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