第九八五回 卜部海が涙した、星野さんのお友達に。


 ――集える梨花りかのお友達。藤岡ふじおかさんに日々野ひびのさん。皆いい人ばかりだった。



 一つの部屋の中で、一つのプラモデルを皆で作っている。……そういえば、佐助さすけ君も好きだったな、プラモデル。こんなにも楽しそうなのは、梨花の影響なのだろうか?


かいちゃんも一緒にやる? バンプラ」と、梨花は屈託ない笑顔で誘った。


「バンプラ? って、そのプラモデルのこと?」と私は問う。聞き慣れない単語。


「もう社会現象にまでなったアニメのプラモデルなの。昔に比べてキットも組み易くなってるから、初めてでもきっと楽しめるよ」と、日々野さんも説明込みのお勧めで、


「ほらほら、こっち来てカムカム。もっとあなたのこと知りたいから」と、藤岡さんは何となく目的が違いそうだけど、何だろう? この引き込まれるような感覚は……



 世界観が違う?


 どうして皆、こんなにも警戒心がないというか、ごく自然に接してくれるの? 私はあなたたちのこと知らないし、初対面なのに、まるで前から知り合いだったような。


「海ちゃん、どうしたの? お腹でも痛い?」と梨花が訊くから、藤岡さんも日々野さんも私の顔を見て……「大丈夫?」「ちょっと向こうで休もうか?」と部屋の隅っこ。エアコンの近くに案内してくれた。日々野さんも藤岡さんも。私は、涙が零れていた。


 ……皆が優しいから。


 止まらない涙は、とても温かかった。



 そして梨花と千佳ちか


 本当の意味で、この二人の区別がつくようになったのは、もう銀杏並木の頃。冬の星座たちも賑わう頃だった。プラネタリウムも……そういえば皆で行った。


 梨花は丸い感じのイメージ。親しみやすい子。


 千佳は少し角があるのかな。そんなイメージ。親しむには、ほんの少しだけ時間が必要かな? 二人を喩えるなら、やはり鏡。性格は真逆といえそうな感じ。そして……


 今に至る。


 回想も夜も明けたのなら、ちゃんと千佳と仲直りしたい。とってもいい子だから。

 少しだけ時間を巻き戻せたら。涙とサヨナラしたいから。


 梨花とは仲良しのまま。佐助君とは男女の仲。その方が安全だから。



 種を明かすと……


 梨花は、徐々にドミノの存在に気付いてきた。生徒会の裏側にあるものを。そこは危険な世界だ。ある時、彼女訪ねた。「ドミノっていう組織に君はいるの?」と。事態はそこまで進んでいたのだから、佐助君も誤魔化すには限界を感じていたの。


 恋仲である限り、いずれ梨花は知ってしまう。裏の世界の出来事を。


 だから距離を置くと決めた。彼女が踏み込んではいけない領域だから。佐助君との、あの海辺での告白は、実は梨花のためだった。私と佐助君が恋仲なら、もし敵が攻めてきたとしても、梨花は安全な位置にある。私たちは、やはりドミノの一員……


 敵が存在する。


 私が妹のそらのことで復讐していたのと同じように、相手にだって、私が……私たちがしてきたことで、私たちに復讐する者もいると思う……いいや、実際にいたから。


 そして噂によると、私たちドミノに敵対する組織も存在しているようなの。その争いも視野に入れとかなければ、関係ない人たちにも危害が及ぶ。人知れず仕掛ける。


 それこそが、これからドミノが行うコンセプト。


 私から提案した。憎まれ役になっても構わないという覚悟だった。……佐助君も同意してくれた。でも、覚悟を決めた筈なのに、私にはできなかった。憎まれ役にもなれずに。


 泣いちゃった……


 千佳に胸倉を掴まれた時、それをどうして、僕にぶつけなかったの? と言われて、何も言えなくなってしまった。まるでハンマーで頭を叩かれたような衝撃だった。


 それどころか、梨花は私を庇ってくれたの。千佳の怒りから。


 ……怖くなった。私はもっと大切なものを失うところだった。裏で処理することが、本当の解決ではない。ドミノの本来の目的は、何だったのか? 或いは、これから創り上げていくのか? そのことについては、もう少し先の話になりそうだ。


 今は梨花が「おはよっ」と笑顔で迎えてくれる。崩れない友情を確信させた。



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