第九八三回 卜部海が放った、一筋の光で得る共感。


 ――それは、過去から繋がる想い出の糸。黄色に輝く糸は、その相手を束縛した。



 黒の衣装を纏う相手は、その前を歩む男女の二人に向けて、明らかに怪しげな凶器みたいな物を翳していたから、私は止めたのだ。仕込みの武器を使ってまで……感じたの、その相手の身の熟しは只者ではないことも。真面に戦えば、恐らく地獄を見そうな予感。


 だから手繰る、相手に絡まった糸……


「君だったのか、あの二人に何か用?」


 と、私は問う。サングラスを外したら少し怖い感じもする目つきだけど、ハードボイルドのような黒い衣装が似合わない程の、あどけない瞳。吹き出しちゃう程……


「あのボブの女に付き纏ってる奴は誰だ? どう見ても怪しい奴にしか見えないだろ」


「あのねえ、君の方がよっぽど怪しいよ。梨花りかちゃんに何の用なの? 私の気配に気付かない程。佐助さすけ君らしくないし、でも使ってるのは、相変わらず手裏剣なんだね」


「苦無だよ、苦無。いい加減覚えてくれよ。一緒に戦った仲だろ? 。まあ、卜部うらべらしいと言えば卜部らしいけどな。それよりいいのか? あの二人を尾行しなくて。……それも相変わらずのようだな。まだ続けてるんだな、誰と組んでる? と言ったところでだ」


 ――口外法度。


 と呼吸もピッタリに、合唱。何もかも昔のまま。恐らく技も、業も……


 そして、また会う約束を交わすための、サヨナラをした。今は其々の道。佐助君が何処へ行こうとしたのかは尋ねず、ただ学園を受験するとだけ、彼は言ったの。


 その後の展開は? この時はまだ知らないまま。だけど、昔よりも遥かに、私は普通の学園生活を満喫しているような気がして……怖いと思える時も、胸騒ぎも……


 ――もうないよ。ここから先は、明るい未来。


 と笑顔で、梨花は声なき声で言ってくれて、そらも笑顔で学園へ来る日を、そんな夢を見ることが許される日を手に入れ……それが幻でないことを祈るばかりなの。


 そして見える二人の背中、歩くカントリーロードの行く先を見届けるためにも。



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