第九八二回 卜部海が語った、戦士の休息も含んで。


 ――戦士は休暇を取る。戦いは飽きたのさ……と言える程。



 束の間ではない休暇を得ることができたのは、紛れもなく梨花りかのおかげ。打ち解けるのに、そんなに時間は経たなかった。殆ど秒殺とも言える程だ。彼女には、そんな不思議な力があった。私を引き込む程の……仕込みの技をも凌駕する程に、心奪われ……


 異なるクラスだけれど、距離は近し、毎日が楽しみになる程に。


 入学式からの一年間は……と、思っていたのだけれど、戦いことが宿命と言わんばかりに、暗躍するドミノという組織。松近まつちかという一つ下の男子生徒に目を着けられた。


 彼の術中。私は見事に戦いへと誘われた。何でも生徒会よりも力のある組織とまで、彼は謳っていたから。やはり私は、相手を仕掛ける時に笑みを浮かべる程の者……


 普通の子ではないから。


 梨花とは住む世界が違うのだろうか? そんな自分の声が、まるで外から言われているような感じで聞こえてくる。否定する否定する否定する……打ち消すように理由も述べながら納得を得ようとする。やがてわかる、梨花が生徒会と繋がりがあること……


 そして、同じクラスの男子生徒と仲良く……まるで恋仲のように。一緒に歩いているのを見かけた。それはそれは学園内ではなく、校外、最寄りの駅のバーガー店。よりによってこんな時に、私の心は胸騒ぎに覆われる。従って尾行へと転じることになった。


 共に乗る電車。その中で気付く異変。


 私の他に、この二人を追っている者がいた。記憶の顔認証……一致する、ドミノで挙げられたターゲット。この二人を狙っているのか? 春なのに脱ぎそこなった黒いコートに身を包み、サングラスにマスクも何もかも黒で、フードまで被っている怪しい奴。


 いかにも怪しいと言わんばかりのスタイルは、私への挑戦か? 見計らう襲撃へのチャンス。この二人が下車するタイミングがその時だ。幸いにして、この二人に気付かれないような距離感を保っている。電車が止まる『最寄りの駅』という名の駅。その瞬間だ。


 ドアが開いた。――まさにその時だ!



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