第九八一回 卜部海が会った、星野というボクッ娘。


 ――それは薄紅色の、桜舞う入学式のことだ。私は見つけた。あの日に出会った子。



 あの降り頻る雨の朝に会った、ボブの女の子。緑が盛沢山の中庭で。


 ……と、その前に、この学園は中高一貫。中学生からの生徒も沢山いる。私は高校生からの生徒となる。中学生の時は別の学校にいた。二年生の春より、このウメチカという地を知った。ここで言うウメチカは、もちろん地名のこと。私は北の方から越してきた。


 そらも、一緒だった。家族一緒だ。


 でも、空は今、北の方でお婆ちゃんと一緒に暮らしている。向こうで、リハビリ的な毎日を過ごしている。中学一年生の秋から、もう私と同じ学校にはいないの。過酷な苛めがそうさせたのだ。私は手を組んだ。忍者と呼ばれるひいらぎ佐助さすけ君と。依頼された悪の成敗をする者と共に。水泳部を拠点としていたの。そこからはもう……私の果てなき復讐劇だ。


 その過程を経て、今ここにいる。


 私は捜していた。ドミノという名の噂の元と、あの雨の日に出会ったボブの女の子。


 二つの内、その一つに会えた今……紛れもなく、あの日の女の子だ。ただ、名前を知らないままだった。世の中には似た人が三人いると言われているけど、声を掛けたのだ。


 僅かばかりの勇気……


「あ、あのっ」と。そしてもう一つの特徴も……「ぼ、僕?」と、その女の子は言った。


 間違いなく目の前で起きたことだ。そして訊く。今度はそのボクッ娘が。あの日に聞いた同じ声をもって「君は?」と訊いてきた。何だか心が少しばかり晴れたような……


 そんな感覚。これまでの後ろ向きな日々を清算しそうな、その様な予感まで与えてくれそうな感じの、そんな雰囲気の中で、私は名乗る「卜部うらべかい」と。そして、もう一言は、


 ――この間は、ありがとうと。


 一瞬、? のような表情を見せるも、何か思い出したような素振りで「あ、あの時の子かな? じゃあ、ここからお友達だよ。僕は星野ほしの梨花りか。クラスは、まだわかんないね」


 と、笑みを浮かべて言った。それから「海ちゃん」と、梨花はもう親しみを現した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る