第九七七回 一人歩む、白黒の静寂に。


 ――スッと目覚めた。薄暗き大部屋の中。傍にはスヤスヤ眠る梨花りかがいた。



 僕は、泣き疲れて眠っていたようだ。梨花が、傍にいてくれた。ここには、クラスの女子が集う場所。皆がお布団で眠っている。かいもまた同じお部屋……でも隅っこ。僕から一番に遠い場所。そして何故だろう? 今は落ち着いている。冷静になれたの。


 脳内を、少しばかり整理する余裕も見られた。


 小学四年生の時、梨花は佐助さすけ君に出会った。夏休みから二学期の間。


 高等部一年生になって、梨花は海と仲良くなる。キッカケは研修で。そういえば、アトラクションで同じ班。初めての共同作業だった。やっぱりそれがキッカケのようだ。


 ギシギシ軋む床の筈だけど、気付くかどうかのレベル。殆ど聞こえず気配もなし。なので、いつの間にやら宿舎を出て、砂浜を歩んでいた。その様は、まるで夢遊病?


 膝を抱えて座る海辺。黒くキラキラ輝く水面。


 紺色のお空に、朧気なお月様が浮かんでいる。


 僕は見ていた、ぼんやりと。時の流れを忘れる程に……考える領域にはなくも、脳内を駆け巡る今日の日の出来事。気持ちが昂ることはなく……やや疲れた感覚で思う。


 海は、我儘なところはあるけど、


 きっと悪い子ではないの。多分、梨花と初めて会った時の僕の方が悪い子だったように思える程、いい子に思えてきた。噂のことについては、謝ってくれた。泣き声で。


 そして、梨花が彼女のしたことを許したように、僕もできるかな?


 このままじゃ、あまりにも臨海学校の思い出が、楽しく飾れない。そんなのヤダ、と心から思える。梨花にとっても楽しい思い出でなければ、僕も楽しくなれない……


「よっ、千佳ちか、……大丈夫か?」


「……わかんない。太郎たろう君はどうしてここへ?」


 と言いつつも僕は忘れていたのだ。広まる噂によって……「梨花お姉がSNS送ってきてさ、千佳がいないって言うからさ、ここに辿り着いたってわけ」と言う太郎君のこと。



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