第九七六回 青き閃光のハイリスクハイリターン!


 ――闇を切り裂く朧気な月光。今ハッキリとわかる、対峙するお顔とその姿。



 できることなら、外れて欲しかった僕の直感。推理を覆す程の代物。間違いであって欲しかった。悲しいくらいに、今この御対面。呆気なく受け入れたことも含めて。


「どうしてなの?」と問う。葉月はづきちゃんを横に。向かい合わせの卜部うらべかいに……


「私から奪い取ったから。佐助さすけ君だけじゃない。梨花りかの心まで変えてったから。悉く私の好きなものを奪ってたんだ。佐助君と私の関係も、梨花と私の関係も。だから元に戻してやったんだ。本来あるべき姿にね」と、その時の海の表情は、人相までも……


 僕は、僕は止められなかった。感情さえも抑えられなくて、


 叩いていた。彼女の頬を……


「僕は、僕はね……」と、涙が零れてきた。言葉が纏まらないの、悲しいくらいに。海はただ、佐助君に恋愛しただけ。梨花と仲良くしたかっただけ。何でこうなったの?


千佳ちか先輩、しっかりして」と、葉月ちゃんは言うけど、それが余計に号泣の域まで導いてくれる。それに海だって「ほら、何も言えないでしょ。千佳に私を責める理由なんてないんだから。何熱くなってるの? 梨花との関係は、あなたには理解でき……」と言うのだけど、僕は胸倉を掴んだ。涙でグシャグシャの顔のまま。怒りを抑えられずに、


「それをどうして、僕にぶつけなかったの? 真正面から。梨花はね、僕に犯人捜しをするなって言ったんだよ。きっと知ってたんだ……梨花はそういう子なんだから」


 と、怒りと悲しみの間で震えていた。その肩を、触れてくれた。そっと優しく。


「千佳、ありがと。もう大丈夫だから」


 と、振り返ると梨花がいて……もう抑えられずに号泣した。


「ごめんなさい、梨花の言うこと訊かなくて」と言うも「もういいから」と、梨花は怒らずに、僕を抱き留めてくれた。「まるで子供」という葉月ちゃんの声も聞こえたけど、


「……ごめんね、二人とも」


 と、静かに……海の声が聞こえてきた。泣き声になっていた……そんな感じがした。



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