第九七五回 糸が切れ、闇夜に仕掛けるその時。


 ――切れたのは、三味線の糸。始まりを迎えた肝試し。



 僕は葉月はづきちゃんとコンビで動いた。仕掛けるにしてもまだ、不確かだったの、相手のこと。学年は葉月ちゃんと同じ。梨花りかのことを嫌っている。但し、男子か女子か不明だ。


 でも、この肝試しを運営する側だから……


 それなりに纏め役なイメージ。例えばクラス委員……とか。照らし合わせる、憶測から少し進展した推理。葉月ちゃんは語る。まだ少し時間ある、僕らの番が来るまで……


「きっと女子。それもネチネチとした感じの。梨花先輩のこと嫌いと見せかけて、実はストーカー並に、ヤバいくらいに独占欲の強い子。梨花先輩を手に入れるため、ひいらぎ君が卜部うらべさんに傾くようにと、同じような手口を使った。巧みな話術でね」


 その時に思った。


 切れた三味線の糸のように、脳に鋭い音が響いた時だ。ハッとなった。


「僕らは、もっと目立つ、肝心なものが見えてなかった……」と、零した言葉。葉月ちゃんは目を見開いて「何ですか、それは?」と訊くも、確実に崩壊する推理の音が……


「どうして僕と梨花の見分けがついた? 付き合ってもいない子は、まず僕と梨花を間違うはずだし、かい佐助さすけ君に告白したのも、前もってわかってたのは、僕だけだし……」


「そ、そうだったんですか?」


「なら、葉月ちゃんも知らなかったわけだし、同じ学年の子というのは不確かなわけだよね。誰が言ったの? そんなこと。……きっとそれも噂だね。もっと身近にあるよね」


 ……もう背後に影あり。


 僕らは、見事なまでに仕掛けられていたのだ。


 だったら今度は、こちらの番……語り掛けた。


「ねっ、海」と、僕は言う。そうなの、暗闇でもわかる、彼女の息遣い。葉月ちゃんは目を見開いたまま、固まっていた。声も出ない程……崩壊する推理の音を聞きながら。


「御見通しってわけね、千佳ちか」と、確かに海の声。でもまだ謎は残る、少しばかり。



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