第九七三回 八月はまだだけれど、登場したの。


 ――葉月はづきという女の子。この子も対象だった。高等部の新一年生だから。



「おっ、はよ、千佳ちか先輩。それに梨花りか先輩に……この人誰?」との御挨拶。スクール水着に白のパーカーで、麦藁帽子とうみの定番の衣装。まあ、僕らも似たようなものだけど。


「あ、私? 初めましてだね。卜部うらべかいと言います。千佳と梨花とは同じクラスで……」

 と、海が言いかけたところ、葉月ちゃんは「あー」と声を上げた。指もさしていて。


「あなたね、梨花先輩からひいらぎ君を奪ったって人。……でも何で? 恋敵の筈なのに、梨花先輩が仲良くしてくれてるのって、フムフム不可解。学園の七不思議よりも不思議ね」

 と言いつつ、思考の世界に入ってしまった葉月ちゃん。


 つまりだね、この子は今、学園ミステリーという分野にハマっている。学園ものは大好物だけれど、ミステリーは僕には不得意な分野。しかしながら『書くと読む』のコンテストでは開催されていて……もしかしたら、葉月ちゃんが挑むのでは? そして更にね、


「あ、あの、今夜どうかな? 肝試しやるみたいなんだけど」と訊いてみる。


「ちょ、千佳、あなたまさか……」と、梨花の声が聞こえる中で、ニコッではなくニパッとした笑みを見せた葉月ちゃんは「ホントですか? 千佳先輩、是非是非参加します」と僕の手を握ってくる始末。しかも両手。余程なまでに、そうゆうことに興味あるの?


 と思いながらも、予想通りとも思えた。やっぱり……という具合に。


「じゃあ、今夜九時に宿舎の前へ集合。葉月ちゃんは僕のチームだよ」


 少しばかりニヤッとした腹黒さも表情に現れていたようで、梨花は「千佳ったら、黒いオーラー出てるし」との呟きも聞こえるけど、これで安全の確保ができたと思えたの。


「それにしても、どうして知ってるの? 昨日のこと」

 と、梨花は葉月ちゃんに訊いてみると、


「もう噂は広まってるよ、僕らのクラスにも。それに、柊君は僕と同じクラスだから」

 と種明かし。何とまあ、世の中狭いもので。


 そう言えば、葉月ちゃんと佐助さすけ君は同じ学年だった。でも、誰が広めたの? 噂を。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る