第九七二回 迎えた朝の向こう側には。


 少し肌寒い藍色のお空は、いつの間にか青いお空に化けていて……


 流れる西瓜の、ではなくて潮の香りが、お家とは違う場所なんだと認識させた。そして何とクラスの女子皆が皆、お布団を並べて寝ている光景に改めて思うも、朝の日差しが拡大していた夢の世界から、現実の日常感へと包んでいった。何ともいえない安心感だ。


「おはよう」と聞こえる挨拶達。僕もいつの間にか溶け込んで、昨日の続きが再開される運びとなって、梨花りかの姿を目で追うも見当たらず、僕はお布団から出て歩み出したの。


 キシキシと奏でる床は、いかにも海辺の宿舎感を僕に与える。


 傍にうみ、中学生の頃からの僕の憧れの光景だった。その中にいた――梨花の姿。

 梨花だけではなくかいも、二人並んで歯磨きとお顔を洗った後のようなシナリオ。


 一人の男子を巡って笑えた者、泣いた者が対峙しているように見えたのだけど、窓から誘う白く広がる世界は、そのことをも裏切って、楽しそうにお話している光景に摩り替えていた。……まるで、昨夜の出来事が幻か、嘘のように……


「あっ、千佳ちか」と、二人から声を掛けられ、僕は近づく。


「海ちゃんが、一緒に泳ごって。西瓜割りも楽しみだって。この後は班に分かれるのだけど、僕らは同じ班らしいよ。それにりんも加えて四人で。それからね……」


 と梨花が言いかけた後に、海が続くの。


「夜は肝試しがあるらしいよ。

 ウフフ……私は楽しみだけど、って、もしかして千佳は苦手だった?」


 意外な一面を見る。海だけに怪の要素も含まれているのだろうか? それに夏の風物詩に怪談話もあるそうな。今宵辺り、そのお話で盛り上がりそうな予感も薄々と……


「うん、苦手……」


「だったら決まりね、千佳は南條なんじょう君とペアーだから。思い切り甘えちゃいなさい」


 と、満面な笑みを浮かべる海。何か含みがありそうな部分まで浮かべていたの。それってもしかしたら、梨花もグル? 何でか意気投合しているように見える二人。恋敵の筈なのだけれど、以前に増して仲良し感が溢れているような。何かありそうな感じ……



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