第一四二章 月が映る海で、奏でるマーメードの愛の詩。

第九七一回 二人きりの星空。手が届くような。


 ――今は梨花りかと二人きり。


 シャンデリアのように輝くお星様たちに見守られつつ。



千佳ちか太郎たろう君と予定があったんじゃなかったの?」


「それ明日になったの。今は梨花と一緒がいいと思って。滅多にないよ、こんなに広い露天風呂に二人きりってシチュエーション。エヘヘ、裸のお付き合いってわけだから」


「そんなの、毎日一緒に入ってるじゃない、お風呂」


「わかってないなあ。今日のは特別だよ、ほら、泳げるくらいに広いから」とか言いつつも、平泳ぎでもなくクロールでもなく多分だけど、犬かきにもなっていない様子で、


「ちょっとちょっと、お風呂は泳ぐところではなくて……ほらほらこうだよ。スイスイーと前に進むような感じ。進めば二つ手に入るから。上達して開放感だって最高だし」

 と、お目にかけてくれた。梨花の泳ぎを僕に。もうマーメードの域。


 思い出す、あの夏の日……


 梨花と可奈かなも加えて一緒に行った、川に温泉。そこでの出来事を彷彿とさせるような。


 ファンタスティックでワンダフルな時間。一番に輝いた思い出なの。


 すると何?


 ドロドロドロと、湯煙から現れて、


「あんたたち、お風呂は泳ぐところじゃないって、学校で習わなかった? まあ、そのための臨海学校だから、私が教えてあげたらいいんだけどね。ただ、ちょっとばかりスパルタだけど、二人合わせたら激しきハードだけど」

 と言い放った可奈と、その後ろにはせつもいた。心強い仲間たちなの。


 二人きりが、四人と増えた。そして思い出すのは、あの春の日……


 四角関係の四月。これまた温泉と川。四角関係で、裸の付き合いだ。僕だけではなかった。可奈も摂も梨花を励ましたい想いは同じだから。ここでもまた、夏の一コマで、


 お空に輝くお星様と共に、今宵は忘れられない、臨海学校の第一日を飾ったのだ。



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