第九六九回 星空のロマンス。海は海が似合う。


 ――夕闇にお星様。僕らはもう、宿舎の中。翌日に備えて、鋭気を養うの。



 その一幕が……


 また畳の大広間で、クラスの女子が集って女子会のようなトーク&トークだけど、卜部うらべさんの姿はそこになく……僕は捜していた。僕は彼女に言ったから……


「女は度胸、当たって砕けろ」と。今思えば、言い過ぎたのかなと思えたから。


「フラれるのわかってて告白しろって言うの? そりゃ千佳ちかはいいわよ、南條なんじょう君と熱愛して、見られても平気な顔してたから。失恋の痛みなんて知らないんでしょうね」

 と、怒っていた程だから。でも、僕はその方が良いと思えた。だから、


「平気じゃない! とても恥ずかしかったんだから。それに僕にだってあるよ、失恋したこと。それが僕のもう一人のパパ……ちょっぴり複雑な家庭の子ってこと。その人とは血の繋がりはないから、だから、僕の全部を受け止めて欲しいと猛アタックだったの」

 ……と、今思えば、かなり危ないアタックだった。


 身も心も裸になっての告白。パンドラの箱を開ける覚悟もしていたから。でもね、


「やっぱり、その人はパパだった。僕はまだ子供で、女ではなかったから」


 と言った直後に、泣きそうになった。その時の一コマが蘇るから。ティムさんが僕のパパになる少し前の出来事だった。二人だけのプチ旅行に於いての出来事だった。


「千佳、色々あったんだね……」と、卜部さんは僕を見る。僕のお顔を改めて。


「勇気出そっ、その方が絶対にスッキリするから」


「うん、わかった」と、笑みを見せた卜部さん……すると何故だろう? 僕ら、この臨海学校までは、あまり喋ったこともなかった間柄なのに、とても親密なお話をしているの。


かい、ファイトだよ」

 と、この一日だけで、名字から名前で呼ぶようになっていた。


「千佳、ありがと」

 と、一時間ほど前の海辺での一コマだった。海は海が良く似合う子だったの。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る