第九六八回 蜜と密、どちらも女の子同士の話。


「待って!」


 やっと出た声で引き留める。手首を掴んでいた。

 キラキラ光る涙。卜部うらべさんは振り返った。走り去ろうとしていたのだ。


「僕に用だったんでしょ?」と訊く……


「いいの、もう……」と、卜部さんは泣いていたから、僕は怒鳴ったの。


「よくない! 見ちゃったものは仕方ないけど、ちゃんと話して。僕に何かお話したかったんでしょ。ここには僕と、太郎たろう君だけだから、皆に話を持ってかれることもないし」


 ……とは言ったものの、どうしたら良いのか?


 卜部さんは号泣の域だし、太郎君は太郎君で「やっぱり女の子の話は、女の子だけの方がいいんだろうな。ということで千佳ちか、またあとでな」と言って去って行っちゃうし。


(泣きたいのは僕の方だよ)

 ……と思いつつも、なるべく元気に声を掛ける。


「泣いてちゃわかんないよ。もうここには僕しかいないし、もうすぐお星様も、きっと綺麗なお空だよ。女の子同士、ロマンを語るのもいいかもしれないよ……」


 って、何言っちゃってるの? これじゃ意味不明じゃない。とか思っていると、


「……いたの。彼にはもう好きな子が。ずっと前から、その女の子のことが好きだったそうなの。私は彼が学園に入部して、同じ高等部になったことを機に、告白するつもりだった。丁度この場所でね。なのに何? 千佳ったら、南條なんじょう君とイチャイチャしちゃって」


 泣いているのか怒っているのかわけがわからないけれど、何か、その怒りを僕にぶつけているような気がしてならず……だったら「年下なの? 彼」と質問の言葉を添えた。


「そうだよ。中学生の時、同じクラブだったの」


「僕の知ってる子? どんな子なの? きっと話せばスッキリすると思うから」


 そして心では、ぶちまけちゃえ――と叫んでいた。


 すると、卜部さんは涙を拭いて、


「変わった子だけど、とても優しい子。特徴は、まるで忍者だから……」と言ったの。



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