第九六七回 千佳の、寄せては返す波のように。
――夕陽に染まる中、僕は歩く波打ち際。一人浸る、女の子はムードが大切。
想像が先走る……そんな時だ。
「おっ、ここにいたのか」と声を掛けられ、振り返ると「ひゃっ」と漏れた驚きの声。
「なんちゅう声出してんの?」と、そこには
「だ、だって……」と、その言葉の続きは言えない。想像で広がるシチュエーション。そんな中でいきなり、その張本人が登場したのだから、ただでは済まない高鳴り、胸の。
「俺、ちょっと話したいこと、あるんだ」
と、目を逸らして言うの。それも詰まり詰まりの言葉。夕陽の効果もあるのか、きっと太郎君のお顔も、僕と同じく真っ赤と思われる。……思い込み? それはない。もう付き合って長い方だよ、僕ら。だから、続く言葉は「話したいことって、なあに?」なの。
夕陽が映えるような、潮風に靡く白いワンピース。
少し塩水を吸うも、すぐ乾く。そして並んで座る波打ち際、寄り添う寄り添う……
それ以上の言葉は、もう一言……
「ずっと、俺のそばにいろよな」と、背中を覆う太郎君の腕。引力のように引き寄せられる「キュン」となる心。その胸にお顔を埋めたくなる衝動も手伝って。あれからどれくらいかな? 恋の芽生えから、恋に落ちるまでの距離。そして経過した時間たちも……
「不束な僕だけど、宜しくね」
と、お顔を見せる。少し涙が出ちゃったような感覚。ある意味のプロポーズと、湧き上がるように広がってゆく。僕とは違った鼓動、胸の高鳴りも。息遣いも、お顔に当たる息遣い。何でか出ちゃう艶やかな声も……体温も感じる程……すると、ペキッと音……
「ペキッ?」と、僕と太郎君も多分、面白いお顔になって見たと思う。
恐る恐ると、その音の発信元を。すると、人がいた。見られちゃった、僕らの行為。
「あっ、ご、ごめんね……」
と、その人は言う。僕は声にする、その人の名を「
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