第九六二回 衣替えはもう、水無月に済ませたから。


 ――思えば、そうだった。気候の変動が激しかったから、季節感にも影響した。



 喩えるなら、今日の通学もそうだ。マスク装着も様々だけど、服装もバラエティーに富んでいる。表現するなら明治維新を彷彿とさせるような……は大袈裟だけれど、半袖半ズボンの人もいればジャケットを着た人、コートを着た人まで多種多様だ。


 その中に於いて、僕と梨花りかは半袖。つまりは夏服。

 しかしながら可奈かなは、何と長袖で、つまりは冬服。


 紺の上着を着用していた。どうしてかと問う。そのスタイルは暑さを誘うから。


「エアコンの寒さ対策ってとこ」と、そうとしか言わなかったの。その言葉の意味は、ここではなく、意外にも学園の中にあった。教室だったのだ……


 確かに寒いと言ったら寒い。


 特にプールの授業の後。普通に冷えた体をより一層冷やしている感じ。気になる設定温度はというと、二十八度ではなく二十四度を下回る? 何でこうなった? 確かにこれは寒い……と声を大にして言うと、柴田しばた先生が設定温度を調整してくれた。


千佳ちか、よく言ってくれた。お前の素っ頓狂な声も今日は大当たりだな」


「ちょっと、まるで僕がいつもそうしてるみたいじゃない」


「違うのか?」「いつもは御淑やかなんです」と言った直後、クスクスと笑い声。しかも梨花に限って「うっそだあ」とか、可奈も便乗して「ホンマか?」とか言うから……


「いいじゃない。可奈もこれで寒さから解放されるのだから、結果オーライだよ」


 と親指立ててにこやかに、勝利宣言を表現し、明日からは皆、夏服で集い合う。因みに今は教室に身を置いているけど、もう七月も半ばに差し掛かろうとしている。僕らの誕生日が七月六日だったから、同時期の一学期末考査も終えて、夏休みも近づく。


 ……と、その前にだ。大イベントが用意されているのだ。プールに続く臨海学校。青春物語の醍醐味と言える。漫画やアニメやドラマまでも、拝見はしたけど未経験。ゆえに憧れだった。海に広がる夕映え、男女が語る愛の言葉たち、その場面に憧れていたから。



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