第一四〇章 夏の扉の向こうは、宇宙規模に広がる浪漫。

第九六一回 でも、実際は梨花との二人三脚だった。


 ――そう思えるの。喩えるなら七夕。天の川に集う乙姫と彦星のように。



 十三歳の同じ日に、僕ら二人の物語は始まっていた。まるで、この出会いが初めから決まっていたかのように。だとしたら偶然なんかではなく、偶然を超えた必然と思えたの。


 その答えは、今辿り着いたこの場所にある。


 佐助さすけ君と共に探す中で、そして芭蕉ばしょうさんとの歩みの中でも、長いトンネルのような細い道の向こうには、いつも梨花りかがいた。例えばそう、このような光の中から。


千佳ちか、おいで」と、手招きしてくれる。


 そっと、手を差し伸べる時もあったの。そして、可奈かなも一緒。姉妹と従姉妹の間柄だけれど生涯、ずっとお友達。僕らの物語は、やはりこの三人の出会いから始まった。



 だから開ける――


 青春まっしぐらの、この夏の扉を。



 そこはもう水の薫り。そして諄くも水飛沫に溢れる、活気たるクラスの仲間たち。持つはデッキブラシ。藻を除去して進み行くプール開きの準備。それが証拠に着ているものは体操服。確かさっきまでは制服だったように思ったのだけれど、いつ着替えたの? その思いを置き去りに、時間は進んでいた。僕も溶け込んでいた、クラスの仲間の中へ……


「さあ、いよいよだよ。待ちに待った、夏の風物詩たち」


「コロナ禍になってからなかったものね、強く希望して良かったね、梨花」


 梨花と可奈の順に聞こえる会話……もうすっかり順応した、夏の騒めき。そして、僕の傍には、いつの間にか太郎君の姿が。そっと肩を抱き寄せて、


「千佳、ここからは俺たちのステージだ。このプール開きは臨海学校へ続いて行く。二人のドラマが展開するのだ、千のストーリーズのクライマックスに向けてな」


 と、その顔も近く息がかかる程。僕らの身長差にも拘らず、トキメキが埋め尽くした。



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