第一三九章 忍者少年と俳句界のレジェントの関係。

第九五六回 例えば、手を繋いで駆ける雨のち晴れ。


 ――それは、新たな仲間。夏の扉を開くことに、トキメキを感じている仲間。



 君もまた、今日から僕らの仲間。……彼は、忍者の末裔ではなく、忍者マニア。そしてバンプラを推しとする少年だった。梨花りかとの共通点は、まさにそれ。


 僕の目の当たりで明かされる、梨花と彼との出会い。僕が初めて知る、ひいらぎ佐助さすけ君との物語を。そこに太郎君が現れ、顔ぶれは揃う。この物語りを視聴する面々たち……


 正門付近にあるお部屋は、そういった大切な場面を演出するために存在している。きっと、お母さんが僕らのため、そしてまた未来の子供たちのために残してくれた、この場所の正体とは……過去と未来を繋ぐ場所。自ら命を絶たないようにと、支援する場所。


 そして彼が、この場所の主。


 ティムさんがその役割を担っていたと思っていたのだけれど、実は彼の相談役を担っていたのだ。何をもって? それは、このお部屋に鏤められていた。ワンルームではない仕掛け。その扉の、向こう側にもあるお部屋……そここそが、彼の住処なのだ……


 柊佐助君の、青春の場。バンプラ一途の場所だ。


 そして彼は、求めていたのだ。共にその一時を過ごす仲間を……


 ほら、梨花の表情が変わった。


 興奮しているのか、紅潮する頬。少し潤む目が、少女漫画のヒロインみたいにキラキラと輝いている。こういうのをトキメキと言うんだよね? 僕は心で問う、梨花に。


 すると梨花は……


「また一緒に、いいかな? バンプラ……」


 と、囁くような声でも、響く声だった。少し泣き声のようにも聞こえた。するとだよ、


「ああ、実は待ってたんだ。梨花がまた来てくれるのをな」


 と、初めて見る笑み、彼の笑顔。少なくとも僕は初めて見た。太郎たろう君もまた「へえ、いい顔するんだな、アイツ」と呟く程。そして太郎君は僕の肩に手を回して「千佳ちか、二人きりにしてやろうな」と、言ったの。「う、うん……」と、僕は顔の火照りを感じた。



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