第九五五回 ザ・忍者!


 ――ドロドロドロと音を立て、またも現れた。まるで神出鬼没。



 その場所は、例の場所……


 宿直室とも言える正門付近にあるお部屋だ。まさに出ようとしたその時だった。出入り口のドアの前に立ちはだかっていたのだ。佐助さすけという名の少年は。


 紅燃ゆる夕映え。或いは光の中……


 いいや、逆光だからシルエットのように思えたけど、意外と表情が窺える程度のものだった。彼は、固まっていたのだ。狼狽と解釈できるような表情。


星野ほしのが二人? いいや、これは分身の術。

 ……きっとそう、そうとしか思えぬ……」


 と、それが精一杯の言葉のようだ。それにしても、何に驚いたのか? 彼の中では梨花りかが分身の術をマスターしたのかと、少しばかり屈折した思考が湧いているようなの。


 それもその筈、僕と梨花が一緒にいるのだから。


 梨花は頭を抱えつつ、深く息を吐いて……まるで覚悟を決めたかのように、


「あのね、これは分身の術でも何でもないの。見ての通り、星野は二人いるの。こちらは妹の千佳ちか。同じに見えるけど、僕と別の人。混乱してると思うから、ちゃんと説明する」


 と、彼が混乱しないようにと順序追って……なので「少しばかり長い話になるけど、大丈夫かな?」と、確かめるように佐助君に訊いた。


 そしてそこで明かされる佐助君のこと。猿飛さるとび……ではなく、ひいらぎ佐助といった。高等部一年生。松近まつちか君と同じクラスで、噂によれば、生徒会の裏の部分で手を組んでいるとのことだそうだ。道理で近頃、忍術を使う手口が囁かれるようになっていた。だとすれば、もう一組の双子のボクッ娘たちともチームを組んでいるのだろうか? 実に興味をそそる内容だ。でも、表の世界からは見えない部分。推測や想像でしか味わえないのだ。


 まあ少なくとも、佐助君は、僕と梨花が双子ということを知らない。僕も佐助君に声を掛けられたのは、ほんの数分前のことだから、僕にとっても面識がなかった。



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