第九四七回 姉と妹。


 ――そこに梨花りかがいた。しかもバッタリと、お部屋の前。



 そしてお部屋へ入るなり、梨花と過ごす時間。夜も更けて二人きり。目の前を走るゼロ系。色づく町並みと、条件に応じて点灯する信号機。リアルだけれどミニチュア。


 Nゲージスケールの鉄道模型。しっかりとではなく、ぼんやりとだけど、眺めている時間。横に並んで座るベッドの上。沈黙が続くも、そっと語り掛けてくる……


「僕は応援してるよ、千佳ちかのこと」


「梨花?」「なりたいんでしょ、学園の先生」「聞いてたの?」「うん、だって……」


 と、梨花は深く息を吐いてから、


「千佳が深刻そうな顔をして、お母さんと二人きりで和室でお話してたから」と、言うものだから、しっかり聞かれていた上に、覗かれてもいたってことの告白だし。


「筒抜けだったんだね」と、半分は怒るも、半分は……


「立ち聞きしたのを怒ってるんだね。でも、心配だったから。和室から出てきた時、千佳が涙ぐんでたから。……実は、お母さんね、前にティムさんとお話してるのを見たんだ」


 正確に言うと、見掛けた。


 しかも学園のすぐそばで。令子れいこ先生のお家でもある西原にしはら家を訪ねていた。


 そこで秘密がわかる。正門付近にある、用務員室というのか警備員室というのか、宿直室とも呼べそうな、そんな役割のお部屋。それは、お母さんが依頼したことだった。


 そして話は繋がっていた。お母さんは、瑞希先生のお母さんにも相談していたの。僕のことで……その頃から、何故か知っていたようなの。僕が学園の先生になりたいと決心していたこと。――なので、ティムさんが言っていた『とある人物』とは、


 お母さんだった。そこから瑞希みずき先生のお母さんに繋がっていた。そして瑞希先生のお母さんの名前は、北川きたがわ初子はつこと言って、学園の元教頭先生。それだけではなく今も、相談に来られる先生たちもいるという噂だ。まるで『先の副将軍』のような存在。学園の先生たちの中では『水戸みと光圀公みつくにこう』に匹敵する程の存在だったのだ。……僕は震えあがる思いだ。



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