第一三七章 この回から『五十五種類の彩りエッセイ編』を迎えるの。

第九四六回 母と娘。


 ――母が求めること。やはり子を大切に想うこと。そのことを娘たちは見てきた。



 その娘たちは、僕のお母さん。僕のお母さんのお姉さん、つまり可奈かなのお母さん。因みに僕のお母さんは梨花りかのお母さんでもある。僕ら三人の縁は、ここでもう繋がっていた。


 そして、僕らのお母さんたちには、お兄さんがいたの。


 享年十五歳の……旧一もとかずおじちゃん。当時の担任の先生は、瑞希みずき先生のお母さんだった。


 その人に、僕は会ったことがあった。何処で? ウメチカ戦に向かう電車の中で。元気なお婆ちゃんだった。そして今でも語り継がれている、この先生のこと。


 ――誰もが笑顔で通える学校。


 それこそが、この先生の願いだった。それはつまり、いじめのない学校。そして表裏のない世界の平和だ。旧一おじちゃんは、いじめを苦に自殺したことにより、この先生の人生に大きな影響を与えた。教師生活のすべてを、その戦いに捧げたのだから……


 それはまた、瑞希先生にも受け継がれて、


 それはまた、僕らのお母さんたちにも受け継がれていたのだ。その上でだ……


千佳ちか、学園の先生になるにあたって、大切なことって何だと思う?」


 と、お母さんは問う。二人きりの畳のお部屋、その真ん中で、緊張の一時の中。


 教員免許を勝ち取るための、大学受験よりも過酷な勉強の日々。きっと、これまでに経験したことのないことだから。でも、お母さんが語ったことを思うと、それとは違ったこと。旧一おじちゃんを通してのことだと思える。潤んだ瞳の意味が、そこにある。


 僕は深く息を吐く……お互い正座で向かい合わせているのだから。深い緊張感。


 そして放つ時。導かれた答えは、僕の思いと噛み合った。そう思えたからなの。


「お母さんの言いたいことは、きっとお勉強よりも大切なことだね?」


 まっすぐに見る、お母さんお顔。僕は今、その先を見据えているという確信に至る。胸を張って向き合えたの。沸々と湧き上がる、この先にある使命感に感極まったの。


「子供たちの人生を共に育んでいくこと。子供たちの人生を左右する大切なお仕事だ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る