第一三六章 Xの鼓動。いつか決めるぜ、稲妻シュート。

第九四一回 じゃあ、Xの鼓動とは?


 ――それは夢現のような感覚。ぼんやりとする中でも、ハッキリとした鼓動。



 とても温かい……


 目覚めたら、すぐ傍にエックちゃんが、僕の顔を覗き込んでいた。微かに鳴き声も聞こえる。いつもとは違った感じの、ク~ンという感じの鳴き声……


 僕は、ジワッと涙が溢れているのを感じて、「ありがと」と囁くような声でも伝えていた思い。僕のいた場所はベッドの下……ではなく和室だった。エックちゃんと反対側には梨花がいて、お布団を被っていた。共に寝ていたのだ、病院から帰ったあとで。


 すると着信、太郎たろう君から。


 今向かっているどころか、もう現れていた。この和室の襖を開けて。しかもスマホ片手に僕を見ていた。だったらなら、何故着信? 僕もスマホに向かって話したの。


「ちょっと、もう目の前だけど」


「おっ、そうだな。でもまあ、梨花りかお姉はまだ寝てるみたいだけど、大丈夫かな?」


「たぶん平気。梨花はちょっとやそっとで目を覚まさないから」


「エックちゃんは、千佳ちかのボディーガードってわけか。頼りになるワンちゃんだな」


「あらあら、エックちゃんに嫉妬? 僕だけじゃないよ、梨花のことも守ってるから。そうだね、僕らに赤ちゃんができても、きっと、ずっと一緒。僕らのファミリーだね」


「えっ、千佳に赤ちゃん?」


 と太郎君が驚きの顔を見せた途端、僕の思考回路はショートした。ボン! と音を立てながら。サッと太郎君は僕の額に手を当てて「おいおい千佳、顔が真っ赤だぞ。それに何か急に熱が上がったみたいだけど」と言い放つものだから、僕はサッとお布団を被る。


「責任取ってね。もちろん、少し未来のお話だけど」


「なら、いつか決める稲妻シュートの後かな。ちゃんと順序があるから」


「いつか……じゃ決まらないよ。ホントに近い未来。僕が先生になるために勉強に勤しんで、それが決まってから。梨花だけじゃなく、僕にとっても憧れの先生のように……」



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