第九三三回 学園の片隅にUFO。


 ――未確認飛行物体との呼び名もあるの。



 ぼんやりと窓の外を見ているとね、目の前を通り過ぎて行ったの。これ位の距離……とはいっても、文章の世界では判らないよね? だいたい、そうねえ……五メートルくらいだったかな? 大きさは、そんなに大きくなくて可愛らしいの。超ミニチュアだよ。


 ……直径で三十センチあるかどうかかな?


 そんな具合であやふやな説明。だからこそ未確認と言えると思うの。


 その時の授業は数学で、柴田しばた先生。それを目撃してから多分三十秒? いやいや、それよりも長いと思うから、六十秒以上にはなっている。ビックリして声を出したのは。


「またお前か、今度は何だ?」と柴田先生は問う。


 この先生の授業の時に限って何かにつけて騒ぐものだから、もう僕は常習犯扱いになっていて、……それでも、見た通りにお話ししたの。見た通りに、忠実に……


「とっても可愛いUFOが飛んでいたの」

 と、答えた。


 ユーモアも洒落もなく有りの侭を有りの侭に。アドリブも厳禁と、心して。


千佳ちか、また上の空どころか寝ぼけてたのか? まあ確かに今のご時世、五月病が流行ってるそうだから、先生が相談に乗ってやるから、このあと職員室に来るんだ」


 ちょ、ちょい……


「あの、ホントに見たんだよ?」と、僕は何を言っていいのかわからなくなって、尚且つクスクスという笑い声で包まれ、力なく座った。力が抜けるように着席した。


「気にすることないよ」と、隣の席の梨花りかが……


「俺は信じる、千佳の言ったこと。探してやるよ。一緒に探そう、見つかればもう未確認飛行物体じゃなくなるから、その方がスッキリするだろ?」と、後ろの席の太郎たろう君が。


「放課後探検隊だね、何だかカッコイイ」と、前の席のりんも目を輝かせて言ったから、職員室へ呼び出されたことも、もはや憂鬱の部類とは違うものにすり替わっていたから。



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