第九三二回 余韻も束の間だから。


 ――GWゴールデンウイークが終わったことに対して。あまりにも呆気なく朝を迎えた。



 起きたのなら、僕は駆けるカントリーロード。いつものコース。ルーティンとなっているジョギングコース。お空は曇っているけれど、その向こうにある青空を想像する。


 風は温いけど、空気は新鮮……そして声が聞こえる、背後から。


 ハッとなった。息切れぎれの梨花りかの声……「ちょっと待ってって言ってるでしょ」


 ジョギング、梨花と一緒だったのを忘れていたの。なので「ごめん」とテヘペロ。


 暫しの足踏み。「休憩しよっ」と梨花が言うから、ベンチに座る、横並びに……


 切れぎれの息も整う。「回復速っ」と僕は驚くと、梨花は笑みを浮かべて「これが若さだ」と、親指を立てる。颯爽と立ち上がり「さあ、行こう、千佳ちか」と元気いっぱい。


 駆け出す梨花。今度は僕が「ちょっと待って」と、言う番になった。


 梨花の後をついて行く僕……

 思わず笑い声もこだまするの。


 ここからは学園。特別な準備はなくても、平常通りが一番。シャワーで身を清め、ブレザー制服に身を包んで登校する。足取りは軽くて、温い風さえも草原の薫り。それが確かか判らないけど、見える景色は、ポジティブなビジョン。明るいのだ。


「思えば僕たち、バイクの免許を取得できる年齢だね」


「そうだね、女の子はもう結婚できる年齢だね」と言った途端に「ちょいちょい」と聞こえる声。すぐ後ろに可奈かながいた。そしてここは電車の中、四駅へ向かう途中だった。


「まだまだ早いよ。男女とも十八歳になったの知らないの?」


 可奈のその言葉に、何だか音を立てて崩れるようなイメージが脳裏を過った。その少し前に何を見たのか? それを自覚した丁度その時に「よお」との声を掛けられ……


「あ、お、おはよっ」と、僕の声は裏返ってしまって、その声の主の太郎たろう君は怪訝な顔をしながら「何だ? 赤い顔して、熱でもあるのか?」と、その手をおでこに翳した。


 太郎君の手が、僕の前髪を掻き分け、おでこ触れた。「ま、大丈夫か」と言って。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る