第九二七回 旋律から辿り着くアピール。


 ――不調和音が整った時、ようやく実現するアピール。期日は一週間後だ。



 体育館で行われる各クラブのアピール。僕らは今、集中して芸術部と力と呼吸も合している。アピールに行われるものは、クラシカルな演奏。生演奏を行おうというのだ。梨花りかが咄嗟に思い付いたアイディア、あの日あの時あの瞬間に……


 そして可奈かなは、


「梨花、あなたまさか……」と唸るも、「そのまさかだよ、公生きみお君こそがキーマンになるんだよ」と、梨花は目に溜まっていた涙を零す。そして語るの……公生君が、自ら。


公太こうたが言ってたんだ。梨花先輩が僕を訪ねて来た時が、その時だって。この学園に、僕の所属できそうなクラブがなかったから。僕にはピアノしかなかったし。いつもいつも一人ぼっち。そんな時だったんだ、梨花先輩が手を差し伸べてくれたんだ」



 ――僕が、君の青春を謳歌できる場所を作ってあげるから。


「と、言ってくれたんだ。そんな梨花先輩を泣かせることは許さないよ」


 ……とも。梨花は涙を拭く。これでは、まるで僕らが悪者みたい……というよりも、何だか、何だかな……「水臭いよ、梨花。僕らいつも一緒だったじゃない」と、これが精一杯の僕の言葉だった。これ以上言うと、泣きそうだから。そして可奈は、


「わかった。一緒に演奏してあげるよ、鈴木すずき君」と、言ったのだ。


 すると、公生君は少し困ったような顔をして、


「どうしたの?」と、梨花が訊くと、


「あの……僕、日々野ひびの生徒会長に伴奏してほしいんだ。シャルロットさんがいつも言ってたから」と、公生君は俯き、目を逸らしながら言った。


 日々野生徒会長といえば、せつのこと。摂もまた、ヴァイオリンの経験者だった。……可奈は少しガッカリしたような表情を浮かべるもすぐに、切り替えて笑みを浮かべ、


「じゃあ、私から摂にお願いしてみるね。当日、思い切り盛り上げようね」と、言った。



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