第一三三章 葉桜から、広がる緑の季節。

第九二六回 千佳と梨花。そして可奈は。


「二人とも、今は言い争ってる場合じゃないでしょ」と、響き渡る大きな声。


 窓から青い光が差し込む、芸術棟の二階で……


 僕や梨花りかの声を凌駕する程の、可奈かなのその言葉。


「今は芸術部をどうアピールしてあげられるのか。どうしたら芸術部に入部したいという子が現れるのか。それを皆で知恵を出し合おうって言ってるの」


 と、少しドヤ顔? いいとこ見せたって感じにも似た表情で。


「何々? まるで自分だけいい子になろうとして」


 と僕が言う前に、梨花がそう言って飛び出して行ったの、「ちょ、ちょっと梨花?」と突然のことだったから、追いかける間もなく、その場に僕は留まった、可奈と一緒に。


 芸術棟から飛び出した梨花……


 可奈は「ちょっと言い過ぎたかな……」と後悔の念。でも葉月はづきちゃんは「ちょうどいい薬だよ」と対照的。何があったの? 僕らがいない間、この芸術部に……思考が傾く。


 僕と可奈、向かい合わせに葉月ちゃんと怜央れお君。


 沈黙が続いた。時計の針の音が目立つ程にまで。



 ――するとドタバタ?


 駆け上がってくる音、階段を。一人ではなさそう複数の足音? バン! と現れる息切れと、少し涙目の梨花。その手に繋がれていたのは……公生きみお君? 鈴木すずき公生君だった。


 梨花は言う、説明というものに近いことを。


「可奈、芸術部の活動内容は絵画だけじゃないよね?」


「そ、そうだけど……」


「じゃあ音楽だってアリだよね? この学園に音楽部は存在してないし、軽音部や吹奏楽も昔はあったけど……ピアノはなかったでしょ。ヴァイオリンだって……」


 そこでハッとなる。僕もだけど、可奈もその域に達している。


「ちょっと梨花、それって私にヴァイオリンを演奏しろってことなの?」



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