第九一九回 三千倍の力、その名も超必殺技と。


 ――えっ? と思うようなネーミング。放たれる光線は虹のように輝いた。



 千春ちはるの手の平から、まっすぐに放たれた。左の手の平から……


 右手は僕の手を繋いでいる。僕の右手も、お母さんの手を繋いでいる。すると次の瞬間だ。旋風が巻き起こると同時に、引力的なものを感じた。引き寄せられる感覚だった。


 見ればどうだろう?


 千春の左手の先。放たれた光線のその後の光景は? 広がる青空。巨漢の姿は消えていた。どす黒く淀んだ面影もなく、青一色、お空を飛んでいた。そう、お空を……って、


「ちょ、ちょっと千春、これって下に落ちるとか? さっきから引力が半端ないけど」


「飛べるのは多分、うちだけのようだね。もうサヨナラの時間みたいだね」


 千春の一人称は『うち』のようだ。


 さっき旧一もとかずおじちゃんが言っていたことで思ったのだけど、この現象と、千春とサヨナラになるのか薄々と、わかってきたような気がするのだけど、正直なところ受け入れたくないというか……「せっかく会えたのに、何で君だけ帰れないの?」と、声になって。


「うちは、まだやることがあるから、この世界で。

 ……そう、一緒に帰ると誓ったから。うちの大切な幼馴染。たった一人の……」


 途切れる言葉、引力は待ってはくれなかったの。


 僕は叫んだ。


「きっと会おう、リアルな世界でまた。約束だよ」


 その瞬間だ。


 千春は笑みを見せた。そう見えただけかもしれない。でも、いつの日か会えることを信じた。この異世界は……魂の彷徨える場所。多くは語らないけど……


 でも大丈夫。


 千春ならきっと。きっと勝利して、また会える日が。


 そして引力。僕とお母さんは流れに逆らわず引き寄せられた。竜と共に帰り道へと。



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