第九一六回 白昼堂々に勃発、千佳と千尋の神隠し。


 ――林道続く最中、霧が深くなり、まるで白いトンネル、迷い込む。



 気付けば僕と、お母さんの二人きり。見渡す限り……広い空間。白くて広い。まるで宇宙空間にも似たような。地に足は着いておらず、重力をも無視された空間なの。


 ジャンプすれば、七百七十七メートル以上跳べそうな程、身体は軽く……と、いうことは、重力は僅かでもあるようだ。空気も読める程は、辛うじてならありそうだ。


 すると何故か、受付が登場した。


 受付にはお婆ちゃんかと思っていたら、少女……のような見た目、だけれど「女の格好してるけど、うち、男ですねん」と言ったのだ。まだ何も言ってないけど。それにしても見た目は……どう見ても少女。しかも可愛さは、女の僕から見てもそう思える。


「君、ホントに男の子?」


「こら千佳ちか、失礼でしょ、気にしてたらどうするの?」


 すると、その少女……ではなく男の子は、


「気にしてないよ、うちは、魔法少年だから。だけど今は見習い中、先輩がここで接客しろというからやっとる。君、千佳という名前? そして君の……お姉さんの名前も『せん』という文字が付く?」と、僕に訊くのだ。興味津々の顔をしながら。エンジェルリングが輝く黒い髪。背中まで届く程に長い。白い微笑みは、可愛さを強調していて眩く眩しい。


「君、いいセンスしてるね。勿論つくわよ、千という文字。私は千尋ちひろ」と、お母さんは言う。ハッとしたのだ、その時。お母さんの名前は千尋。受付でスーッと千尋が千になる。


 と、思っていると、


「贅沢な名前ね、ここでは千と名乗りなさい」と、言った。スーッと変わる『千尋』から『千』に。僕は言う、思わず「じゃあ、僕は? 僕もつくよ、千という文字。どうするのかな? 僕も千と名乗ったら、千が二人になっちゃうよ?」と、言い放った。


 甘いね、うちも入れたら三人になるよ」と、まさかのカウンター。すると、


「うちの名前は千春ちはる。ここではマジカルエンジェルを生業としてるから、宜しくね」と。



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