第九一二回 広がる白色は、まさかの展開を招いた。


 ――それは僕が、息を吹き返した時に見た景色。そこにいた、ある人のこと。



 僕の、命の恩人。お母さんにソックリな……と、思っていたら、まさかのお母さんだった。目の当たりにしておいて見間違えたわけではないけれど、今ここにいることが、衝撃的だったのだ。どうしてここに? と思うも、脳内は白色が広がったままで、思考することも喋ることもままならずで「とにかく医務室へ行くから、立てる?」と……


 この施設にある救護室のことだ。


 担架までは要しなかったけれど、覚束ない足取りで、皆が支えてくれた。お母さんもだけれど梨花りかも、可奈かなせつも皆が皆。救護室で診察が行われ……懸命な人工呼吸と冷静な対応の末、僕が息を吹き返したのも、奇跡に近いものと言っていた。ならば……


 お母さんが、僕の命を救ったの。


 感謝の思いが溢れる程、僕はお母さんが大好きになれた。生きることも大好きに。


 だからこそ、元気にもなれたの。


「お母さん、どうしてここに?」と、訊くに至るまで。


「それはね、パパと一緒に二人きりの旅行で懐かしのこの場所へ繰り出したのだけど、溺れてる子を発見して……それがまさかのあなただったなんて、驚きも驚きだったし」


 すると梨花が泣き声で……


「ごめんなさい。僕が一緒にいながら……目を離してて」


「ありがと、梨花。千佳ちかの面倒いつも見てくれて。ごめんなさいは私の方。私が教わってたのよ、私があなたたちのお母さんとして足りなかった分。もしよかったらだけど、ここから家族旅行にして良かったかな? 可奈ちゃんも摂ちゃんもいる中だけれど……」


「もちろん」「もちろんよ、旅は道連れ皆楽しくですよ」と、可奈も摂も言ってくれ、僕の体調も戻ってきた。回復の一途を迷わず辿る、綺麗な右肩上がりだ。


 まずは、お休みなさい。


 明日になったら、おはようと、明るい未来へ向かって。



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