第九一一回 時を駆ける少女たちの不思議な御対面。


 ――まさに御対面だ。若き日のお母さんと、高等部の僕ら。



 窓越しに日の当たる場所。僕の幼い頃そのものの、ちかちゃんもいて……とても不思議な光景。とても明るい場所。その中でお母さんは微笑みながら「ありがとう」と、


 言ってくれたの。長く感じる時間の流れ……時間にしてみれば、ほんの数秒のことだけれど、その百倍にも感じられた。ドキドキするのは、その間がピーク。


 僕がお母さんの娘と……わからないようにと、何故だか願っていた。


 でも、次なる言葉は見つからない。そのまま、そのまま笑顔と共に、白く輝いた。真っ白に、見える限りの景色を包んだの。その刹那、声が聞こえたの、お母さんの声が。


千佳ちか……」と、確かに僕のことを呼んでいた。


 でも消えたの、真っ白な光と共に。或いはドロンと、白い煙に紛れたような感じ。


 この時の僕の服装は、白と黒。


 春模様のピンク色は、まだ遠いように思えた。


「千佳……」と、また呼んでいる。でも、先程の人とは別人。違う声で、ユサユサと揺れる僕の身体。すると、するとだよ。ぼんやりと見える風景は、先程と異なっていた。


 桜並木……そう言いたいところだけど、施設内だけは確か。


 先程までとは見違えるくらいに近未来。ルネッサンス感を前面に敷き詰めている。白い世界が広がってゆく。奥へ奥へと進むの。奥になる程、細くなる道。細道は僕の意識を誘導する。パチリとハッキリ映し出される光景は、覗き込む皆のお顔。


 ……って、何があったの?


「良かった、死んだように眠っていたから」と、涙で濡れる梨花りかの顔……梨花だけではなく可奈かなも、せつも皆が皆。「息を吹き返した」とも聞こえる野次馬の声。ここは大浴場にも思えるけど、プールサイド。着ているものは水着。レンタルの水着だ。どうやら溺れたらしい。水の中から助け出された時には……実は息をしていなかったそうだ。助けてくれたのは誰? と思っていたら女の人。お母さんによく似た女の人だった……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る