第九〇七回 水の音の誘惑、エイプリルフールの日。


 ――いつしか迎えていたの。虚構と現実が入り混じる日を。



 ぼんやりとした視界……


 薄暗くも徐々に、ハッキリしてくる景色……


 ここは何処? という感覚が襲う。見慣れない景色が広がるの。すると何? 僕の身体が縮んでいる? 全体的に? いやいや、それならお洋服も一緒に? 有り得ない。


 お布団が並ぶ、四組以上。そこにいる、もしかして。


 僕だけでなく、皆もまた。縮んでいる、縮んでいる。


 起こす上半身。皆が皆、揃いも揃って、縮んでいる。直感も入り混じる中、これまでの過程も関係なく、直感が主体となって放たれる言葉は、「梨花りか可奈かなせつ」と、皆を起こす掛け声。少しでも少しでも、このリアルを受け入れられるためにも。やがて起きる、


 皆が皆。見合わせる顔と顔。お顔とお顔……


「君誰?」「あなたこそ誰?」「そういうあなたこそ」と、僕以外の三人が三人とも、訊ね合う結果に。だから言う、敢えて。少しばかりの空気のような発想の転換を召喚し、


「梨花、可奈、摂、僕は千佳ちか。お名前合ってるよね? 答えて」と、僕は問うてみる。


「合ってる」と、次々と返ってくる反応。


「やっぱり」と、納得な僕。求められる「何がやっぱり?」との問い。食い入るように見られる僕の顔。鏡のような梨花の顔を見れば一目瞭然、幼くなっているのだ。皆が皆。


 多分……


 六歳児。見た目はだけど。もしかしたら中身は、今のまま。すると高校生。


 これじゃまるで、あの国民的アニメの設定では? なら、事件を推理していかなければならないの? とか思っていると、ポツリと梨花が、六歳児になっている梨花が……


「いつ戻れるのだろう? 元の姿」と、言ったの。


「滅多にできる経験じゃないよ、さあ、六歳児を満喫しよっ」と、前向きに逞しくをモットーとして言うのだけど、グスッと……梨花は泣き出してしまって、頭を抱えた……



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