第九〇五回 令和五年三月三十日の今日は。


 ――マラソンもゴールを迎える。僕は走った、駆け抜けた。風を感じながら。



 これまでは、確かにマラソンだった。三月三十日、二年続けて両脚を使って走るマラソンだったけど、今年は、三回目は少しばかり違っていた。『アニバーサリ―・チャンピオンシップ』も今日を迎える前に終了して……例年とは違った感じのパターンなの。


 マラソンはマラソンでも、書く方のマラソン。

 初めてのケースだ。まさに初陣。三月初日から開催され……思えばもう明日だ。


 明日が最終日となる。


 あと一息との思いで、今まさに執筆している。


 でも、ちょっと待って。書きたいことはこれからなの。梅田から乗り合わせるサンダーバードだったけど、どちらかといえば京都寄り。せつのお家からも僕らのお家からも京都から乗り合わせる方が近道。それに電車の中でノートパソコンを開いて執筆するのも初めての経験だ。お隣には可奈かな。後ろには梨花りかと摂……の配置だ。


 もうサンダーバードの中に身を置いている。耳鳴りのする長いトンネル。ここぞとばかりに集中。耳が圧迫されそうな状況の中で、これまでのいきさつを描きに描くの。


 現地集合だったはずの旧一もとかずおじちゃんは、


 何故か、このサンダーバード内にいたの。バッタリ会った。おトイレから戻る途上の窓に映っていたのだ。「現地集合じゃなかったの?」と、僕は問う。少しキツイ口調で。


「ごめんごめん、千佳ちかが何か深刻な顔をしてたから、つい……」


「執筆に夢中で、ちょっと漏れそうになったから焦ってて……」


「確か『書くと読む』のマラソンだったね。千佳の作品、読ませてもらってるよ」


「ありがと。でも、マラソンは三十一日までなの。これからだったんだ、書きたいこと」


「それは新たな出発だ。『四月の四角関係』の第二弾というのは、どお? 二泊三日ならば、帰りはエイプリルフールだし。四人で力を合わせる感じのエピソードなんかも」


 と、旧一おじちゃんは嬉々として、珍しい表情を見せていた。



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