第九〇三回 かわいい子には旅をさせよと。


 ――パパは言った。梨花と僕に。つまりは許可してくれたの、北陸旅情を。



 もう十六歳。梨花りかも僕も……


 もう大人だと言った。パパと巡り会ったのは十三歳の時。三年の違いだけど、時の流れを感じた。旋風のような時の流れだ。それは僕と梨花だけではなく皆もまた……


 同じ。


 同じだった。四人が四人とも親に許されたの、二泊三日の北陸旅情を。未成年の女の子が四人だけで、旅をするの。見た目は、その様にしか見えないけど、実は違うの。


 旅のエキスパートがいる。


 幽霊になっても、まだ旅を続けている人。その人と僕ら四人は行動を共にする。


 その人の名前は、松尾まつお芭蕉ばしょう


 多くの人達はこう思うだろう。安心だと。それは僕らも同じ。旅に慣れている人が、僕らの傍にいる。匂いは……確かにある。僕よりも優しいクリーム状のようなもの。


 僕らのものは、各々が忍ばしてある。


 それにしても、まだ出発の手前。芭蕉さんの姿も気配もないけれど、もしかしたら何処かで見ているのかもしれない。或いは、もうすぐ傍にいるのかも……例えば、例えばね、


 振り返ると、ほら……


「やあ、久しぶりだね」と、いう具合に。さあ、どうする? どう反応する?


「そ、そうだね、お久しぶりだね。ここから僕らと一緒に出発するの?」とか言って、意味が通じるかな? と思いつつも。てっきり北陸の地に入ってからと思っていたから。


「先に行って待ってると思う。新一しんいちがそう願ってるらしいから。『可愛い子には旅をさせよ』と言っていたそうだから。じゃあ向こうで。芭蕉さんと一緒に待ってるから……」

 と言って、スーッと消えた。


 少なくとも芭蕉さんではなく、旧一もとかずおじちゃんだった。今はまだ、せつのお家にいる。


 ここからあと、可奈が集って準備を始めるところなの。出発はもう少し先になるの。



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