第一二九章 奥の細道から始まる百の物語。

第九〇一回 物語の奥深くに物語はあるの。


 ――芭蕉ばしょうさんは語ってくれた。この広がる野原の片隅にある大樹の下で。



 僕らは囲む。バスケットに詰め込んだサンドウィッチたちを目前に。ブルーだけではなくカラフルなシートは、僕らだけの領域。僕らだけの語らいのスペースだ。


 思えば、奥の細道には身も心も開放できる場所が多々あった。でもでも、まだまだ僕らの経験も、勉強不足の面も多々ありながらも……


 僕は僕の感じた奥の細道を記す。我がエッセイのエピソードとして。


 そして道連れに、梨花りか可奈かなせつ……この三人と共に、この同じ時間、どの様な形としても尊きことには違いなく、生死を超え、折角会えたこの時に祝福を込めていた。


 夢と現実をも超えて。


 でも、夢ではない確かなもの。

 それは、サンドウィッチの味だと思う……


 僕と梨花と可奈は、摂が初めて作ったサンドウィッチに新鮮味を覚えたけれど、


 芭蕉さんには、サンドウィッチそのものが新鮮で珍味なものだと思えるの。何度も吟味した上に食したのだから。僕は確かに見届けた。梨花と可奈と摂も同じと思える。


 僕と同じことを思っていることを……


 すると摂は問う。何だか不安そうに思いながらも。


「どう? 美味しい?」と、声にして、芭蕉さんの表情を窺いつつも。


 いやいやそれなら、それ以前の問題に思える。何を思ったのかといえば、芭蕉さんは幽霊ということ。味覚がわかるのかな? その前に食すことができるのかな? と、思いつつ、僕は目を凝らした。……すると、するとだよ……な、何と、


 食したの、サンドウィッチを。そしてそして「美味しい」と、お顔を綻ばせながら連発していたの。摂は涙を浮かべながらも「良かった……」と喜ぶも、僕はといえば驚愕という単語が、しっかりと当て嵌まるような感じの、身体からサーッという音が響いた。


 梨花も可奈も同じだったと思う。摂だけは、嬉々としていた。



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