第九〇〇回 ついに迎えたこの日、この回。


 ――残り百回となるこの回、温い春の風と共に、そっと訪れた。



 近づいてくる、カウントダウン……


 千の物語まで、あと百回。残されたエピソードたちの中、僕がどの様になってゆくのかは、想像や予測とは違ったものになりそうなの。想定外のことは有り得る今日この頃。


 だからこそ、


 だからこそ、次へ進んでゆくの……


 春の迷いは、ポツリポツリと雨を降らせた。温泉の湯によって火照っている身体を冷ますには、好都合なスパイス。大自然のシャワーに裸体を躍らせたの、四人が四人ともだ。


 真逆なものが激突した果てには、


 ――お空と物語に、虹がかかるように整うの。地に足が着くように。


 そして嘘のように、


「晴れたね、千佳ちか」と、梨花りかが。僕は「うん、晴れ渡ってる、満天に」


 迷いも一瞬。身に纏うお洋服は、次へ進むための衣装の役割も兼ねている。ピクニックへと転じるの。思えば、せつにとっては初めてのピクニックだったかも。その感想はね、


「実は一度やってみようと、ほら、一人ピクニックのつもり。見て見て、生まれて初めて作ったんだから、サンドウィッチ」と言うくらいに、自信作のようだ。


 摂はお金持ちのお嬢様。サンドイッチなら家政婦さんが作ってくれる。自分の手を使わなくても、準備までしてくれる……だけど、彼女は自らの手で行った。


「楽しみだね、可奈かなと摂のサンドウィッチの食べ比べ」と、梨花は満開な笑み。そろそろ桜も……と思いつつも、思えばもうお花見シーズンだ。そこにボワッと、白煙と共に姿を現す芭蕉さん。約束通りに参加してくれるの、僕らのピクニックへと。


 先程までの温泉の風景が嘘のように、続く細道。奥の奥にも細道が存在していた。何処まで続くのか? と、そんなことを思いながら歩み歩み続けると……


「ようこそ、奥の細道の最果てへ」と、その場所こそがゴールなの? 広がる野原……



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