第八九七回 麗しき午前の風、心のお洗濯。


 ――そこは、緑の中にある温泉。身も心も自然と一体化する場所。



 芭蕉ばしょうさんは、消えた。

 僕らがここを出る頃に、また現れる約束をして。


 その約束とは何?

 それは、ピクニック。


「僕らと一緒にお昼しよっ」と、告げたから。この広い野原いっぱいの美味しい空気も一緒に食したいから。俳句ができる程の絶景に、巡り合えること間違いなしだから。


 この後も楽しみ。


 そして今も。身に纏っているものすべてを脱いで、青空が広がるその下で裸になる。タオルは……何故か、可奈かなだけが持参している。「何で?」と、梨花りかが問うも、「まっ、こんなこともあろうかと思って」との返答。もう少し捻ってほしいと思うも、そうでなくても胸いっぱいで、洗いっこへと展開した。裸は僕だけではなく梨花も可奈も一緒。


 そして、


「今度は可奈の番だね、洗われるの」


 と、僕も梨花もいうことは同じで、呼吸もピッタリに合唱。可奈は笑みを見せるも、呆気にとられる程の始末。梨花は言う、「初めは僕」と、それに便乗して、「次は僕だったね」と迫る迫る。可奈との距離を詰めていく。可奈は後退りするも、容赦はなし。

 洗われるのだ。長い髪も丁寧に。

 僕と梨花がタッグを組めば、満足度は保障できる。それが証拠に、可奈のお顔も綻んできた。初めて見るような可奈の表情。右半分、左半分。または上半身と下半身を、わけて洗って行きながらも、いつの間にか、主導権は我らが自由に手に執っていた……


 気持ち良さも絶景をも含み。


「タオルは禁止だし、スポンジも持参してたんだね、可奈」と、梨花が言うとね、


「それはね、後であなたたちを、隅々まで洗うために用意したんだからね」と、答えた。 



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