第八九五回 迷い込む、また奥の細道へ。


 ――事の始まりは、可奈が企画した三人で行くハイキングというよりもピクニック。



 ソフトな遠足という感じ。最寄りの駅で可奈かなと待ち合わせした。僕と梨花りかは、すでにお家から一緒だから。颯爽と来た電車に乗る。でも、御心配はない。


 方向に間違いはなし。学園へ向かう方面だから。


 ピクニックの道程は、可奈が調べたもの。……って、このパターン、前にもあったような気がする。いやいや、確かにあった。あの時は、プールに行こうって皆で……


 僕は梨花と顔を見合わせる。その表情でわかる。梨花が僕と同じことを思っていることを。とある予感。薄々とだけど、或いはそう思っても認めたくないだけかもしれない。


 駅に着く。目的地に近い駅に。


 学園へ行く駅の一つ前の駅に。見渡す限りの緑が、そこにはあるの。


 並んで歩ける程、道は広くなく一列に……フーッと息を深く吐く梨花。言いたいことはわかる。僕は敢えて抑えているけど、梨花は言うの、抑えることもなく。


「可奈、この道合ってる?」


「あ、多分……調べたから」


 と、焦りの表情を見せる可奈。スマホを見ながら、見ているフリで、目が泳いでいるから、これは間違いなく『迷った』という部門に入る。そう思った途端、可奈は急に笑い出して「サプライズよ、サプライズ。あなたたちを驚かそうとして、練りに練った企画」


 と、言い出す始末。明らかに誤魔化しなのが見え見えで……


「可奈、後ろ後ろ」と、僕は言った。


「後ろ?」と、可奈は振り返る。すると、即座に悲鳴がこだました。やっぱり予感通りと今、確信した。僕は声にするの。「また会えたね」と。


 そう。可奈の背後に、僕らの視界にいる人は、松尾まつお芭蕉ばしょうさん。本当にお久しぶりな対面となった。消えた筈だけれど、また会えたのだ。……と、いうことは、


「案内してあげるよ、素敵なピクニックコースを」と、芭蕉さんは言ったのだ。



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