第八九四回 春一番! 風が駆け抜けた。


 ――ジョギング中のことだ。清々しい風だった。



 冷たく感じはしたけど、その中に温かさを兼ね備えていた。奥の深い感覚と、


 そして……「千佳ちか、一休みしよっ」と、梨花りかが息切れ切れに言ってきたから、


 僕はクスリと笑って、「そうだね」と、ベンチ……ではなくブランコに腰を掛けた。ゆらゆら揺れるブランコの色は白色。穏やかな雰囲気によく似合う。或いはロマンチックな表現をするなら、恋人の色。薔薇色という説もあるけれど、きっと様々と思う。


 色んな形がある。


 女の子同士とか、男の子同士とか……其々の形があってもいいと、僕は思う。


「さあ勝負だよ、千佳。何処まで高く漕げるか」

 と、言いつつ、梨花は漕ぎだす、ブランコを。


「ちょ、梨花、回復速すぎだよ。もう少し休んでから」と、僕が言った時には、もうブランコは揺れて、立ち漕ぎ。梨花はブランコの上に立って漕いでいた。……フッと頬が緩むのを感じた。そうだよね、小さい頃にできなかったこと満載だったよね。と、そう思えるようになってきた。ついこの間の、ぬいぐるみとバンプラで遊ぶ梨花の姿が重なった。


 ――僕は立ち上がった。ブランコの上で。


「よし、勝負だよ、梨花」


「やるな、千佳。でも、僕に勝てるかな?」


 とは言っても、ブランコの漕ぎ上がる高さは互角。スピードまでも。序にいうなら、半袖のシャツが白くて短パンが紺色というのもお揃い。今日に限って靴下も白でシューズまで同じものだから、傍から見たら、まるで分身の術のようになっていると想像も容易。


 それが証拠に、ほらほらほら……


 視線が集中している、僕ら二人に。男女の組み合わせが自由な様々なカップル。小さい子が目を輝かせながら「私もしたい」と、母親に言っている様子。お顔から火が出そうになりそうだけれど、梨花はお構いなしで、「次はジャングルジムだよ」という始末だ。



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