第八八五回 さりげなく筋トレの成果。しっかり現る。


 ――いつかのお昼休み。僕は太郎たろう君と一緒に、昇降口の踊り場にいた。



 屋上へは、ドアが立ち塞がっている。色は重厚感あふれる黒鉄色。ぼんやりと窓から零れる白い光の中で、一際目立つ存在だ。それがあることにより、お昼休みの時間に制限があると自覚できる。僕と太郎君が助け合わなくとも、ごく自然と自覚ができる。


 二人きりの世界。二人だけの世界。


 別に、怪しいことはしていないの。ちょっとしたカードゲーム。今時珍しいトランプによるゲームだ。二人以上だからこそ成り立つの。オールドメイドという名のゲーム。


 減りゆくトランプの枚数……


 見詰め合う瞳と瞳。その息遣いさえも、緊張な駆け引き。


 ジョーカーを最後まで持っていたなら、負けとなるから。


 お互い、よく知った仲。仕草や表情の読み合い。確率はハーフ。僕が持っていなかったら、太郎君が持っている。手持ちは……何と二枚。どちらかがジョーカーとなるの。


 ここで決まる。ここで。緊張の瞬間。


 響く音は、鼓動。胸の鼓動……高まる、高まる、高まる。って、太郎君の視線が。


(ちょ、何処見てるの?)


 胸元よりも下、お腹よりも、スカートの……って、やだ、見えちゃっている? いやいや、そんなはずもないし、って、一体どこ? 何処なの? と思いつつも手に取る、


 ――太郎君が持つ二枚のトランプの内、一枚を。


千佳ちか、いい太腿してるな」と、言うから思わず取り上げちゃって……


 見ると、な、何とジョーカー。このハーフな確率で引いちゃった……


 僕は顔を赤くして「太郎君、反則だよ。セクハラ」と言うも、クスッと笑いながら太郎君は「反則? 心外だな。俺は千佳の引き締まった脚を見て感心しただけなんだけど。さすが毎日ジョギングしてる証だって思ってな」と言ったの。そして更に、


「KACの次のお題は『筋肉』なんだろ? まさに千佳の筋トレの成果だよ」と加えて。



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