第八八二回 赤いトレーナーの頃、僕は星座になれた。


 ――それは小学四年生の頃、歩く街並み。当時は見知らぬ場所だった。



 何処へ向かって歩いていたのか? 彷徨っていたという方が、この表現にはピッタリ。


 ちょっとした遠出。ちょっとした冒険も交えて。


 僕は電車に乗った。走る私鉄沿線……そこから、どうやって歩いたのか? 気が付けば中央図書館。その敷地内にあるもの……


 それはプラネタリウム。 遠い日の記憶が蘇る。しかも鮮やかに。


 輝くお星様。暫く眺める……すると何が得意? 夕映えの向こう。


 それらも彷徨う。人波に紛れる。ごく自然に中に入る。室内が暗くなって、淡々としたナレーションが響く。女の人の声。それよりも、緊張感をほぐすの。


 三分はまでは起きているけれど、そこからは……

 夢の中だった。お月様が、とっても近かった……


 そして今、僕はここにいる。可奈かなと同じ、見上げる星空。梨花りかは、まだ眠りの中。


 その筈だった。目覚める梨花。僕は言う、「おはよ」と。梨花はムスッとした顔で、僕を見るも、すぐ笑みを見せて「綺麗なお星様たちだね、千佳ちか」と、静かに言ったの。


 見たのは北斗星。


 北のお空高くに輝いている。何故か、そこまで飛べるような気がした。ここなら、可能なように思えるも、例えば手を上げても、お星様が掴めないように。そして太陽系の説明に至る。水星・金星・地球・火星・土星・天王星・海王星の順に紹介される、次々。


 刻まれる脳内。想い出として……


 あの日も同じ。変更に次ぐ変更だけれど、僕らのことを語るには、それと匹敵するのかもしれない。敢えて声に出さない。僕も聞かされる立場にあったとしたら、次々と、


 宇宙の大きさは計り知れないの。


 それと同じく育む命も、計り知れない。明るい未来へ向かうことこそ僕らの権利。何があっても命は大切だから。だからこれからも、僕らはここに集うことを約束したの。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る